英雄伝説V「海の檻歌」OPメイキング

ガガーブの前に立ち尽くすアリア、旅立つマクベイン一座、果てしなく広がるヴェルトルーナの世界、そして旅先で出合う仲間たち!店頭でも大々的にデモとして公開され、ゲームを始める前にさまざまな想像力をかき立ててくれたあのオープニングがどのようにして作られたのか、ドキュメント仕立てで大公開!製作期間の数ヶ月にわたって英伝スタッフに密着取材した成果をごらんください!

■コンセプトの決定

1999年6月某日、グラフィック、サウンド、プログラム、シナリオと各分野のスタッフが一同に会して、ミーティングを行い、オープニングのコンセプトを決定しました。ゲームの中でオープニングをどういった位置づけにするのか、それを通してプレイヤーに対して何を伝えるべきなのか、以下のような基本的方針が話し合われ、決定されました。


1. プレイヤーをゲームの世界へ引き込む魅力にあふれたものを目指す
2. キャラクターを前面に押し出すばかりでなく、世界観が伝わるものを
3. 英伝シリーズの最後を飾るものにふさわしい格調高さ
4. 簡潔なテキストと映像を絡めて、緻密なレイアウトで従来のファルコム作品やコンシューマーのムービーとの差別化をはかる
5. それぞれのグラフィックには、可能なかぎり何らかのアニメーション的な工夫(多重スクロール、フォーカス移動、ループアニメ、等々)を行う
6. シーンのテーマごとに曲調をはっきり変える
7. 可能なかぎり曲と映像の同期をはかる

この日は次回より各々が具体的な案をもってくることにして解散しました。

▼ゲームの様々な資料やスタッフの意見をもとにどんなものを目指すのか話し合われます。ちなみに「ガガーブ三部作超極秘資料集」をスタッフも使っていたりします。

■アイデアの具体化

具体的な案として絵コンテがいくつか持ち寄られ、コンセプトに沿って最終的にどういう形にまとめるのか再度話し合われます。使用するグラフィックや演出等の方向性が次第に具体的になり、プログラムなどの技術的な面も含めて細かい部分を決めていきます。

「海の檻歌」は、早くからゲーム内でもサウンドとグラフィックとの同期にかなり気が使われていたために、自然な流れでオープニングに関しても映画のように映像とサウンドを完全に同期させることが最終的に決定します。ここで出されたアイデアは、最終的に構成がしぼられ、一本の絵コンテとしてまとめられます。


■絵コンテ決定稿 1
■絵コンテ決定稿 2
■絵コンテ決定稿 3

絵コンテがあがると、いよいよ制作の作業がはじまります。

▼ミーティング参加者がコンセプトに沿った具体案をこんな形で持ち寄り、最終的に一本のものに練り込みます。





 
 
■制作1

最初のミーティングから、約二週間。実際にデータの制作に入りました。グラフィック担当のスタッフによって、絵コンテに沿ったキャラクターや背景のラフが描き起こされていきます。オープニングのカット数は約40枚。初めは紙に描かれますが、すぐにスキャナで取り込み、実際のゲームに使われる解像度で線画の補正等の作業を進めます。同時にサウンドチームによる曲の制作や、シナリオライターによるテキストの作成が進められていきます。

▼紙に描かれたラフは、スキャナで取り込みコンピュータ上で線画を補正していきます。

■制作2

原画をもとに、実際にゲームに使われる静止画・動画の素材データが制作されていきます。この間に曲の仮データが届いたので、スタッフ全員で曲を聴き、イメージを確認します。なかには一日中、この曲を繰り返し聴きながら作業するスタッフもいたりします。


作業効率をあげるためにオブジェクトを3Dソフトで作成し、絵として描き起こしたものもあります。ゲームコンセプトにもある「明るく、爽快」が色使いの基本?

■制作3

7月に入ると、仕上がったグラフィックに、3Dソフトや様々なツールを使って、アニメーションさせるための処理が行われていきます。セルアニメのように必要な枚数を実際に描くこともあれば、可能な部分は3Dソフトなどを使用して効率的に作業を進めます。

順調に進行するかに見えた制作ですが、ここで物言いがつきます。スタッフ内から「今の曲のイメージでは『白き魔女』に近いのでは?」というツッコミがはいります。曲変更は全体のイメージにも大きく関わるため、論議がモメにモメます。結局、どうするのかをサウンドスタッフの間で再度話し合いが行われることになりました。

- アニメーション処理 -

(右)オープニング冒頭の立ちつくすアリアの髪がなびくシーン。髪の毛のなびくパターンが、レイヤー一枚ごとに手で描かれていきます。


(上)、(左)
キャラクターのアニメーション等は、全て手で描かれたものですが、この蝶や鳥が飛ぶシーンは3Dソフトがサポートに使用されています。

■制作4

曲のイメージが白き魔女に近い、という意見が出たところまで紹介しました。サウンドチームは、特に妥協を許さない人たちがそろっていることで社内でも有名です。結局ここでも、一度は決まりかけた曲が大きく変更されることに。オープニングの構成もこれにあわせて調整され、コンテにも修正が入ります。そうこうしている間にグラフィックのほうは、次々とカットがあがっていきます。


■制作5

こうして新しく上がった曲と作成中のグラフィックの原画をつかって、完成後のイメージをつかむため、編集担当者によって仮ムービーが組まれます。まだ色が塗られておらず、スタッフのメモが残ったグラフィックもありますが、今まで制作されてきたデータが、初めてかみあう瞬間です。オープニング全体に初めて血が通うこの瞬間が、もしかしたらスタッフが一番緊張する場面かもしれません。この段階でも演出の細かい面で、スタッフ内で活発に意見が交わされます。
(左)仮ムービー編集中 (中央)髪の30パターン全て手描き。担当者は動画になった画面を見て「報われたよ」と一言 (右)まだ、仮なのでこんなものが!

■制作6

仮ムービーを見て検討した結果、曲のテンポと絵のマッチングにスタッフ一同どこか物足りなさを覚えたのか、カット数を大量に追加することになりました。スレイドやアリアのカットが新たに描き起こされ、同じ行程でデータの作成が進められます。この時、曲の最終バージョンが届けられました。
■後に追加されたカット。左からスレイド、アルトス、ジャン&リック、パルマン。曲も決まり、否応なしにスタッフにも気合いが入ります。スレイドはOPに全く登場していなかったため、女性スタッフ陣から凄まれて登場させることに・・・なんて事実はありません。

■制作7

いよいよ最終段階。編集担当者によって、オープニング全体のタイムレイアウトがフレーム単位で綿密に詰められていきます。今回は特に曲との同期が重要なポイントとなるため、慎重に作業が進められていきます。すでに作業を終えたグラフィックのスタッフから様々な注文も飛び交い、大変そう・・・Vのためだけにツールに新たな機能を追加するなんて場面も。でも、この作業が終われば制作は完了です!

■社内専用ツールによる編集作業。音楽にあわせて、グラフィックのタイムシートが作成されていきます。特に檻歌のオープニングは、厳密な曲との同期を心懸けたために編集者は、数フレームのズレにも気をつかいます。組み上げてみても、スペックの低いマシンでは再生が飛んでしまうため、バラしてパーツごとに減色したり、フレーム数を減らしたりと大変そう・・・



■最終検証・完成

プログラマによって出来上がったオープニングがゲームに組み込まれます。ゲームを起動させ、「最初から始める」を選ぶとこの画面が!そして、この状態で英伝Vスタッフ全員によって最終的な検証が行われ、GOサインがでました。このオープニング制作の期間はゲーム本体の制作にかけた期間全体から見れば、ほんの一部にすぎませんが、3年の開発期間を締めくくる作業でした。それだけにスタッフにとっては感無量の瞬間です。「白き魔女」、「朱紅い雫」以上壮大な物語が奏でられる英雄伝説V「海の檻歌」、まだプレイしていない方は是非プレイしてみてくださいネ!


ついに完成!ちなみにこのガガーブを前にたたずむアリアのシーンはスタッフの思い入れが強く、最初は他と同様フレームの中のシーンでしたが、途中で全スクリーンに変更し、最後の最後まで夜遅くなっても調整していました。スタッフの方々、どうもおつかれさまでした!


The Legend of Heroes V "A Cagesong of the Ocean"
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