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■銀朱

【タイトル】 業務日誌:クロスベル警察捜査一課ダドリー
【作者】 銀朱

 ......暑い。それにしてもなぜこの私が特務支援課など
と行動を共にせねばならんのか!
聞こえないように独り言をつぶやいたはずが、隣の男
は、それを聞きとがめた。
「仕方ねぇ。お前が適役だったからな、ダドリー」
「セルゲイ課長! 一課は暇ではないのです!」
「いや、一課の課長は喜んでお前を差し出していたぞ。
この間の借りはとっとと返したいんだと」
「......」
一課の課長の言い分も分かる。奴らには前回の事件で
大きな借りを作ってしまった。
だが、なぜ私がみっしいの着ぐるみを着て、炎天下の
中にぼっ立っていなくてはならないのか!

 新しい市長となったディータ・クロイスが提案した『も
っと市民の身近にある警察を目指そう』という理念の下、
『クロスベル警察祭』を開催したのだ。
主催運営はいつも暇な特務支援課で、市民が警察のこ
とをよく知ってもらう為、さまざまな展示やイベントを
行っていた。
「これこそ支援課の仕事でしょうが」
「いや、ティオは『警察犬と触れ合おう』の会場につき
っきりだし、ウチのお嬢様はお偉方の受けがいいんで接
待にまわっている」
「もう二人いたはずですが?」
「ロイドは、この企画全体の進行係で手が空かん。ラン
ディは......ほれ、そこにいるが使い物にならん」
セルゲイ課長がタバコを吸いながらあごをしゃくった
先には同時開催されたウルスラ病院のブースがあった。
『愛の献血運動』の看板の脇ででランディが、
「可愛い看護師さんに囲まれるなら、死んでも悔いはな
ーい! おっしゃぁ、もう一度!」
血の気のない顔をしながらブースに戻っていった。
「......馬鹿が」
「そういう訳だ。あきらめろ」
「しかしっ! これは課長でも問題なさそうですよ」
「俺、現場監督だもん。そういうのは若けぇモンに任す」
「二課にもいるでしょう、若いのが!」
「別に、お前がよけりゃ代わってもいいぞ」
セルゲイが指差したのは噴水前のステージだった。今
上演しているのはエマ捜査官の『女性の為の護身術』。
「いいですか、暴漢に襲われたときはためらってはいけ
ません。手をつかまれたときは、腕をひねり、こうしま
す!」
エマの蹴りが暴漢役のレイモンド二課捜査官の急所に
命中する。泡を噴いて倒れるレイモンド。逮捕術におい
て彼女は師範クラスの腕前だ......

「午後にもエマの公演があるんだが、みっしいとどっち
がいいかね。
まあ、お前さんを着ぐるみ役にしたのは一応理由があ
るんだが。お前さんのSクラフト、素手だろ。みっしい
に武器なんぞ持たせたらシャレにならんからな。
ほれ、今回の来賓がきたぞ。護衛も兼ねてんだ、しゃ
んとしろ。それとお前はみっしいなんだからな、『みしし
っ』って言えよ。じゃ、俺は向こうで一服してくるから」
逃げに入った課長をため息をつきながら見送り、『一日
署長』であるリーシャ・マオを迎えに行く。

 ......長い昼間はまだ続きそうだった。

■銀朱

【タイトル】 業務日誌:ウルスラ病院ラゴー教授vsゲイリー教授
【作者】 銀朱

某月某日:ラゴー
 ほとんどの患者が、ようやく蒼い錠剤の副作用から抜
け出たようだ。
 ヨアヒム医師が、どう道を間違えてあの薬を開発した
かは、今となっては誰も分からん。だが、同じ医師とし
て、患者に対する取り組みや、薬学や神経学の研究成果
は賞賛に値するものだった。
 彼が抜けた穴はとても大きい。彼の元で学んでいたリ
ットン研修医なら、彼の研究が少しでも分かるだろうか。
 明日にでも院長と掛け合って、内科の研修医にしてもら
わねば。

某月某日:ゲイリー
おっと、ラゴー教授。抜け駆けはいけませぬな。未来
ある若者こそ、最先端の外科技術を学ぶべきですぞ。
それにラゴー殿は人を育てるのが下手だとお見受けし
ましたが。
リットン君だって、あなたのレポートのおかげで意識
が散漫して、事件のときに肝心な事を覚えていないし、
あなたの所の研修医にいたっては、評価を気にするあま
り、肝心の患者を診ていないではないですかな。
リットン研修医に関しては、外科で面倒を見ますぞ。


某月某日:ラゴー
そうは仰いますがな、ゲイリー殿。あなたの所だって
部下の教育がなっていないではないか。
いつも遅刻してくるわ、とんでもない爆発音が内科外
来まで聞こえてくるわ、いったい病院を何だと。
外科なんぞ物騒な所に、優秀な研修医を置けんな。

某月某日:ゲイリー
内科に行くとハゲが感染しますからな。そうですか、
ラゴー教授がリットン君を欲しがる訳は、ヨアヒム医師
の薬学で毛生え薬を作りたいからですな!

某月某日:ラゴー
外科の教授はストレスをまったく感じない単細胞だか
らハゲないのだな。

某月某日:ゲイリー
貴様! ちょっと表に出ろ!

某月某日:ラゴー
何を! 貴様こそ!

某月某日:リットン研修医
あのー、僕はいったいどうすれば......

某月某日:ラゴー
うるさい!

某月某日:ゲイリー
お前は黙っていろ!

某月某日:リットン研修医
うう......あんまりだ......

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