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■少年カレル

【タイトル】 時を刻むおじいさん
【作者】 少年カレル

 キレイな石を見つけたのは、
ロレントという異国の町だった。

 カルバードからの旅も楽しかったけど、
何よりワクワクしたのは、リベールに着いて
飛行船を見たときだ。

   飛んでる! 大きい! かっこいい!

 時刻表をチェックして、カレルは何度も飛行場へ
足を運んだ。
その途中、ガラクタ置き場から見つけたのが
ヒビの入った不思議な石だった。
暗闇でも微かに金や銀に光る。太陽にかざすと、
ヒビのおかげで複雑にきらめいた。

 すごく気に入って持ち歩いた。
一回落としたときはひどく落ち込んだけど、
遊撃士のお兄さんが見つけてくれて、ついでに
クオーツの欠片だと教えてくれた。
クオーツと言えばオーブメントの部品、
オーブメントと言えば、すごいものは
船まで飛ばしてしまうのだ。

 オーブメントが見たくて工房をうろついていたら、
商売の邪魔だと追い出された。
しかし、その場にいた客らしきおじいさんが、
導力式の時計を見せてやる、と時計台に
連れてきてくれた。

   ゴーン ゴーン ……

 時計の針が重なると同時に、鐘の音が鳴り響く。
「今日もいい音じゃな」
「いい音とか、悪い音とかあんの?」
「平和な音がいい音じゃよ」
よくわからない。
首をかしげつつも、中に入って時計の内部を
見せてもらう。
「すげー! すげー!!」
一面に配置されたクオーツと歯車に興奮して
身を乗り出すと、おじいさんに叱られた。
「すげーな! うちにも時計はあるけど、
オーブメントじゃないんだよ」
「この時計台も、十年前までは歯車式
だったんじゃが、五年前に導力式になったんじゃよ」
「ん? 十年前? 五年前?」
もしかして、ボケているんだろうか。
「十年前に戦争で塔ごと崩れて、
五年前にみんなで建て直したんじゃ」
「戦争……?」
十年前という時代に実感は湧かないが、
塔の中にいる今この瞬間に崩れたら、と思うと、
単純にこわい。
「五年前からずっと、この時計は
ロレントの平和の歴史を刻んでおるのじゃ。
こいつの時計守であることは、わしの誇りだよ」
微笑む顔は、なぜか少しさみしそうだ。
「じいちゃん、何歳?」
「ん? 63じゃが」
「じゃあさ、この時計よりも、じいちゃんの顔の
シワの方が、ずっとロレントの歴史ってヤツを
刻んでると思うよ」
言われたおじいさんは一瞬きょとんとしていたが、
すぐに笑い出した。
「ふぁふぁふぁっ。ありがとうよ、坊主」
別に褒めたつもりはなかったけれど、おじいさんが
嬉しそうだったので黙っておくことにした。


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