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■Tarnar

【タイトル】 それは、そう遠くない未来のおはなし
【作者】 Tarnar

今まで、本当にありがとう。

そう言って女の子を悪者から守るためにいなくなってし
まった黒うさぎをおいかけて。
女の子がとびこんだ木の穴の先にはおかしな世界が
広がっていました。

未知の世界への不安と、大好きな黒うさぎがいない悲
しみで女の子はたくさんなきました。
それこそ流した涙が大きな池を作ってしまうくらい。
すると「ちょっと静かにしたまえ」と白いマントの男の
人が女の子をふしぎな魔法で小さくしてしまいました。
驚いて足を滑らせてしまった女の子は涙の池にまっさ
かさま。

それからは更におかしなことの連続。

やっとの思いで涙の池から岸に上がったと思ったら、
同じく池から上がった黒めがねのドードー鳥にかけっこ
勝負を挑まれたり。
何がきにいらなかったのか狐っぽい目つきの公爵婦人
に戦車をもちだされそうになったり。
すみれ色のかみの女の子にお茶会に誘われたけどな
かなか解放してもらえなかったり。

なんだか邪魔されてばっかり。
でも、そればかりではありません。

かわった言葉づかいのねぎみたいな頭のいもむしは小
さくされた女の子が元の大きさに戻る方法を教えてくれ
ました。
リュートをかきならすチェシャ猫は女の子に進むべき道
を示してくれました。

時に誰かに助けられながらも女の子は前へ進み続け
ます。

そして舞台は赤いビロードの絨毯がひかれた黒い壁の
どこか。
女の子の目の前には黒いドレスの女王さま、その周り
を守るように白い霧の兵士たち。

首をはねておしまい!

ひょんなことから女王さまの怒りにふれてしまった女の
子は霧の兵隊に囲まれてしまいました。
でも、女の子はひるみません。

なによ、あんたたちなんてただの霧じゃない!

その言葉で一斉に霧が女の子に襲いかかって来ま
す。
が、誰かに腕を強くひかれてそのままつれだされたので
特にけがはありませんでした。
女の子をつれだしたのは探していたはずの黒うさぎ。

走って、走って誰もおいつけないくらい遠い安全な場所
まで女の子をつれてきた黒うさぎは、言いたいことはあ
るけど何を言っていいかわからないという風な女の子
につげるのでした。

もう、ぼくのことはおいかけないでほしい。

その一言で、女の子の言いたいことはきまりました。
曰く—

 

「...ル......エステル、起きなさい!」
突然の呼びかけに急浮上する意識。
目覚めたエステルが理解の追いつかない頭で辺りを
見回すと、最初に目に飛び込んだのは姉と慕う銀髪の
女性の姿。

「もう、こんな所で寝てると風邪引くわよ?」
苦笑いを零しながらそう言う彼女の言葉に、エステル
は自分が屋外のテーブルに伏せって眠っていたらしい
ことを知る。
そして思い出す。
現在仲間たちと共にリゾート宿川蝉亭で束の間の休
暇を満喫していることを。

「夢...だったんだ...」
そう呟いたエステルの目の前、テーブルの上には誰か
が置き忘れたであろう数冊の本。
そのうちの一冊—不思議の国のアリス—の金文字が
何かを告げるように太陽の光を反射してきらりと光っ
た。


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