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■U-GO

【タイトル】 インターミッション —レン—
【作者】 U-GO

私は。レンは。
知らなかった、知りたくなかった、
……知りたかった、真実を知った。

おじいさんが居ないことを確認し、最低限の導力灯が
燈るのみの薄暗い工房へ、足音を立てずに滑り込んだ。
「ごめんなさい。起こしてしまったわね」
もしかしたらヨシュアでも気付けたかどうか判らない位
に希薄な気配を、レンの「パパとママ」は音と光と温度
の近接センサーで容易く捉える。
整備・補強のため工房のハンガーに固定されたそれは、
わずかに震え始めた。
圧搾空気を吐き出し、各関節のアクチュエーターを駆動
させ、16箇所の導力機関に火が入り、自律判断機構が
作動していく。
一連のプロセスで待機モードから復帰し、頭部カメラの
眼差しを向けてくる、その瞬間がレンは好きだった。
レンのどんなワガママも優しく、力強く叶えてくれる、
素敵な「パテル=マテル」が目を覚ますのだから。

話を聞いてもらいたくて、ここへ自然と足が向いた。
「……レンね、やっぱり混乱してるみたい」
固定された脚部に背を預けて、立てた膝に顔を突っ伏し
たまま、話しかける。
「クスクス。あらゆる情報を受け入れ、全ての環境を
整えて、他人どころか、ちゃんと準備すれば国家単位
でさえ思いのままに操ることの出来るこのレンが」
きっと泣き顔と大して変わらない笑顔を浮かべてること
だろう。見なくても判る。
「……自分の気持ち一つ、思い通りにならない」
こんなことではいけないのに。
こんなに弱いレンは、許されない。
世界の全部が牙をむき、噛み付き砕き切り、弱いレンを
たちまち千々に引き裂いてしまうだろう。

レンが自分の心に沈み込んでいると、わずかな機械音が
耳朶を打った。
機械言語を圧縮した音声信号に乗せる、レンにしか通じ
ない「パパとママ」の言葉。
意味は……「前進」。
自身は固定され、身動きの取れる状態ではないから、
これはレンに向けた言葉だろう。でもどこへ?
「いや、場所じゃない。……判るのね、パテル=マテル
には。レンが。レンの心が」
レンが見ない振りをして遠ざけてた答えに、すぐに辿り
ついて指し示してくれたんだ。
真実を見て弱くなったんなら、さらなる真実は、レンの
行く先は、その弱さの先にしかない。

「いつもそばに居てくれてありがとうパテル=マテル。
自分がどうあるべきか何となく判った気がするわ。
でも、レンは……やっぱり怖い。壊れて、汚れてるん
じゃないかって、思ってしまう」
だから、最後の賭けをしないと。
どうしようもなく呪われて、そしてどうしようもなく
強くなってしまったレンを、受け入れられるのか。
真っ黒に塗り潰された過去に、あのお日様みたいな笑顔
が、お月様みたいな微笑が浮かぶ。お人よしの捜査官の
真摯な瞳も少しだけ。
浮かんで消えて、そしてレンは決断した。
「もう少しだけ付き合ってね、パテル=マテル。
強い私と弱い私、どちらが勝つのか、もう少し……」


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