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■青水ユエ

【タイトル】 特務支援課の平々凡々な日々 〜起床〜
【作者】 青水ユエ

いつも早起きな、我らが支援課のリーダーが珍しく
寝坊している。
そんなわけで起こしにロイドの部屋まで来てみれば、
同じく我らが支援課のアイドル・キーアと揃って
穏やかな寝息を立てていて。
平和そうに眠っている寝顔を見てついつい口元が緩むが
いつまでも見ているわけにもいかない。

 

「二人とも起きろー、朝だぞー。」

「う〜ん………。」

 

キーアが目をしょぼしょぼ擦りながら上体を起こす。
そのふわりとしたやわらかい髪を、俺は優しくなでた。

 

「あ、ランディだ。おはよー。」

「おう、おはよーさん。」

 

起きたばかりだというのに、眩しいぐらいの笑顔で
こちらを見上げてくる。
う〜ん、朝から癒されるぜ。
そして肝心のリーダーはというと少し身じろぎをした
だけで、まだ覚醒には至っていないらしい。

 

「ロイド、起きないねー。」

「よぉし、キー坊。ロイドのお腹にダイブだ!」

「わかった! それーっ!」

 

ドスンという音と共に「ぐっ」とうめき声が上がった。

 

「おっはよー! ロイド!」

「お、おはよう、キーア。…できれば、ダイブ以外の
方法で起こしてほしかったけど…。」

「最初にちゃんと起きろーって言ったぜ?」

「あ、ランディおはよう。そっか、そんなに深く
眠ってたのか、俺…。」

「もうすぐ朝メシができるから、さっさと準備して
降りてこいよ。ほれ、キー坊も自分の部屋に戻って
着替えるぞ。」

「はーい!」

「悪いな、ランディ。すぐ下に下りるから。」

 

おう、と返事をしてロイドの部屋を後にする。
一緒に部屋を出たキーアは、ぱたぱたと3階へと
上がっていった。

 

(………考えてみりゃあ、キー坊といつも一緒に
寝てるんだよな…あいつ。)

 

ということは、朝目が覚めたら隣にいつもあの笑顔が
あるわけで。

俺的には、朝チュンで半裸のねーちゃんに優し〜く
起こされるのが絶好のシチュエーションなんだが、
キーアの笑顔を真っ先に見られるロイドを少しでも
羨ましいと思ってしまってる辺り、俺も相当な親バカ
なのかもしれない。

■青水ユエ

【タイトル】 特務支援課の平々凡々な日々 〜午前〜
【作者】 青水ユエ

「かちょー。キーア、としょかんに行きたい!」

「何だ。一昨日借りた本、もう全部読んだのか?」

「うん! おもしろかったよー。」

 

ここ数週間はキーアを連れて図書館に行くのが日課と
なり、ロイドの知り合いである図書館の司書とも
すっかり顔なじみになってしまった。
一昨日は確か、その司書に薦められてシリーズ物の
絵本を十冊ぐらい借りてきたはずだ。
それをたった二日で読破できることは、保護者として
喜ぶべきことなのだが、そろそろ図書館にある子供向け
の本を全部読みつくすんじゃないだろうかという懸念
さえ湧いてくる。
とは言え、これで堂々と仕事をサボることができるわけ
だ。

 

「よし、新しい本を借りに行くか。ついでにタイムズ
にも寄ってゆっくり買い物するぞ。」

「わーい、お買い物ー! あ、でも、かちょーおしごと
は?」

「サボリだ、サボリ。財布を取りに行くから、少し
待ってろ。」

 

自室に戻って、ヘソクリ袋からミラ札を取り出す。
そろそろ紅茶の茶葉が切れるな、タバコのストックは
……昨日めんどくせー会議の帰りに買ったんだったか。
と思いながら財布にお金をいれて自室を出ると、
僅かに開いたランディの部屋の扉からキーアの
感嘆の声が聞こえてきた。

 

「キーア。準備はでき」

「ねえねえ、かちょー。この本、おっぱいの大きな
おねーちゃんがたくさんいるよ!」

「…………………………。」

 

机に広げられた本は、普段ランディが愛読している
グラビア雑誌。
キーアにとっては『美人なお姉さんがいる本』程度の
認識だとは思うが、

 

「これは大人が読む絵本だ。キーアはまだ読むんじゃ
ないぞ。」

「おとなも絵本読むんだー。ねえねえ、かちょーも
読むの?」

「俺はもう絵本からは卒業したんでな。」

「おおーっ。」

 

図書館にこういう類の本が置いてなくてよかったと、
どこかズレたところで安堵してしまった。


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