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■澪

【タイトル】 とある小話 〜クロスベル上空にて〜
【作者】

 俺は飛行船から外の景色を眺める。
「魔都・クロスベルか」
 マフィアの抗争が勃発していたと言う話を聞いていた
が、ある事件により、クロスベルの最大勢力のマフィア
・ルバーチェ商会の会長らが捕まり、その争いも影に潜
めつつあるらしい。
 クロスベルに光が見えつつあるが、クロスベルを渦巻
く闇はまだ晴れない。恐らく、ここではまだ何か起きる
。いや、もしかしたら、起きているのかもしれない。
「ウィ〜ズ、ウィ〜ズ、ウィズウィズウィズ♪」
 隣で、白髪の小娘が鼻歌を口ずさんでいる。こいつは
5W1H、構わず歌って踊る。大人しくしていることは
できないのか?
「乗客に迷惑だ。少しは大人しくしてろ」
 俺がそう注意すると、こいつは不機嫌そうな表情を浮
かべる。
「暇」
「知るか。俺の所為じゃない。暇なら、自分の剣でも磨
いていろ」
 俺がそう言うと、あいつは渋々自分の剣を取り出して
、磨き始める。まだそっちの方が迷惑にならない。
「ウィル」
 剣を磨き終わったのか、声を掛けてくる。
「何だ?」
「ミシュラム、行きたい。みっしぃ、欲しい」
「暇があったらな」
 "みっしぃ"と言う人形はミシュラムのご当地キャラ
である。俺はあまり好きになれないが、意外に大人気の
ようで、中々手に入らないらしい。
 そんな中、アナウンスが入る。どうやら、あともう少
しでクロスベルに到着するらしい。なら、その前に連絡
を入れておいた方がいい。
「少し席を外す。その間、勝手に動くなよ」
 俺はウィズにそう注意すると、あいつは元気良く頷く。
それを見て、俺は席を外し、甲板に出る。そして、周り
に誰もいないことを確認し、携帯型通信機を取り出す。
「———ウィル・スノーホワイトです。予定通り、クロ
スベルに到着します」
『………そうか。わざわざ連絡済まない。君達が動いて
いることは"蛇"は勿論、エラルダ大司祭には知られな
いように』
 我々を快く思ってないみたいだからね、と彼女は言う。
クロスベル大聖堂を統括するエラルダ大司祭は典礼省派
で有名であり、封聖省は勿論、聖杯騎士団のことも快く
思っていない。その為、表だった行動不が出来ないので
、まだ典礼省に正体がばれていない俺に白羽の矢が立っ
たわけである。納得はしていないが、仕方がない。
「心得ています。観光客として上手く紛れ込みます」
『君がいれば、何も問題はなかろう。ところで、ウィズ
の方は大丈夫か?』
「今のところはまだ」
『それならいい。クロスベルに着いたら、彼らに会うと
いい。きっと力になってくれるはずだ』
「分かりました」
『それでは、健闘を祈る』
 彼女はその言葉と共に通信を切る。俺は通信機を仕舞
い、客席に戻る。だが、そこにいるはずのあいつの姿は
ない。
「………あいつ、大人しく待ってろって、言っただろう
に」
 俺は深い溜息を吐く。クロスベルに着く前に、トラブ
ルに見舞われると思わなかった。
 あいつ探しの為、飛行船の中を走り回ったのは言うま
でもない。


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