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■FreeFall

【タイトル】 昼下がり
【作者】 FreeFall

 昼下がり。
若いバーテンがバーのカウンターでグラスを磨いて
いました。
今日は本当によい天気。
バーに客はいませんでした。
こんな日はぼんやりすごしたいものだなぁ、とバー
テンは思っていました。

 客が一人、入ってきました。
黒いスーツ姿の女性でした。
バーテンのいらっしゃいませ、という言葉もそこそ
こに質問してきました。
「どこにあるの?」
バーテンは首を傾げました。
トイレの場所を聞かれたのかと思い、そう尋ね返し
ましたが女はため息をついた後、いらいらした口調で
言いました。
「私はわかってるの。ごまかしても無駄。聞いても
答えてくれないのなら、自分で探すけどいいの?」
バーテンはしばらく迷いましたが、了承することに
しました。だって、何を探しているのかわからない上
に教えてもくれないのですから。グラスを割るのだけ
は勘弁してくれ、とだけ言いました。
女は勝手にバーテンのいるカウンターの内側に入っ
てきて、さらに奥の扉を開けて行ってしまいました。
本当に勝手な客だ、とバーテンは思いました。
もしかして新手の泥棒なのか?
今更、バーテンは警戒し始めましたが考え直しまし
た。こんな寂れたバーを襲っても、得られるものなん
て安酒くらいしかないなぁ…

 そんなことを考えていると、今度は男が入ってきま
した。しかし、また客ではありませんでした。
手に拳銃を持っているので、先ほどの女より質が悪
いです。
バーテンは言われる前から両手を挙げて、無抵抗振
りを証明しました。男は言いました。
「で、どこなんだ?」
何がですか、と素で聞き返してしまいました。質問
してくるのに、質問内容を教えてくれません。
やはり男もイラついており、機嫌が良くはないよう
です。
何度か押し問答をしていると、女が扉から出てきま
した。
殺気立つ二人、と蚊帳の外のバーテン。
必然的に銃撃戦が始まりました。
女はカウンターの内側に隠れながら、拳銃を撃ちま
くっています。
男は店内にあった丈夫そうなテーブルを横倒しにし
て盾にしながら、拳銃を撃ちまくっています。
「あなたにだけは渡すわけには行かないのよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
銃撃戦の最中に、器用に会話しながら打ち合いが続
きました。撃ち合いが続いて…
ずっと続いて…
両者とも弾が切れたので、今度は己の拳に全てをか
けて殴り合いを…
いや、何だかんだで愛を語る方向で決着が…

 昼下がり。
若いバーテンがバーのカウンターでグラスを磨いて
いました。
今日は本当によい天気。
バーには客はいませんでした。
なんかいいオチおもいつかないかなぁ、とバーテン
は思っていました。


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