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■サクス・シンサー

【タイトル】 堕ちた女神の祝福
【作者】 サクス・シンサー

 昔、昔。オーブメントもなかった頃のお話です。

 1人の女神が天界の禁忌を破り、そして天界の法律で
裁かれてしまいました。その法律によって彼女に科せら
れた罰は、『天界からの永久追放』。彼女は刑罰に従い
、人間界に落とされてしまったのです。
かつて『癒しの女神』と呼ばれていた彼女も、力を使
うことを禁じられた今では、ただの『美しい娘』でしか
ありません。かつて親友だった『空の女神』エイドスも
、今では遥か遠い存在となってしまいました。
天界から追放されて失ってばかりであった元女神の彼
女ですが、同時に得た物もあります。

「ただいま」

 それは、人々の絆。
彼女は天界から堕ちた後、とある辺境の村で若い男と
一緒に住み着いています。

「お帰りなさい」

 帰ってきた若い男に、彼女は嬉々として迎えました。
2人はお互いに愛し合っていました。といっても、そ
の愛は親友同士の持つようなものでしたが。
それもその筈、元女神であった彼女は人間と直接関わ
ること自体が新鮮でしたから、当然でしょう。彼女はそ
の男だけでなく、村の人々全員を愛していたのです。故
に、彼女はとても幸せでした。

 しかし、彼女の幸せもそんなに長くは続きませんでし
た。
彼女が人間として生活して何年か経ったある日、世界
中に謎の疫病が広がったのです。その疫病の存在は人々
はおろか、元女神である彼女も知らないものでした。そ
してその疫病に対し、人々は対抗しましたが、結果は見
られず。そうしている内に、ついに彼女の愛する村も、
疫病に侵されてしまいました。
彼女の目の前で、村の人々は次々と疫病に侵されてい
きます。彼女は人間が考え抜いた方法で疫病にかかった
人々を必死に看病しましたが、やはり無駄に終わってし
まいました。
ああ、なんて自分は無力なんだ。
悶えながらも、必死に生きようとする人々を見て、彼
女はどうしようもない無力感に襲われ、同時にあること
を思うようになりました。そしてその思いは、愛する男
が疫病に侵された時に決心へと変わりました。
禁忌を犯す、決心へと。
村の皆と別れる、決心へと。
心を決めた次の日、彼女は村の皆を1カ所に集めまし
た。何だ何だ、という疑問を聞き流して、彼女は、
禁じられた力を、使いました。
驚愕の念を表す人間達。しかしその体が軽くなったこ
とが分かるや否や、人々は手を挙げて喜びました。嬉々
とした声があちらこちらから聞こえます。

 しかし、そこにはもう、彼女の姿はありませんでした

 やがて彼女の愛した男は、疫病を研究して、如何なる
疫病であろうとも一瞬で治す薬を作りました。その効果
は、例の疫病の問題も薬ですぐに解決してしまう程。男
は、その薬に名前を付けました。何年経っても忘れられ
ない、1人の娘の名を。

『キュリアの薬』は、今日も世界の何処かで使われてい
るでしょう。


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