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■猫好きおねいさん

【タイトル】 遊撃士が町にやってきた 3
【作者】 アルト・タップル

 オレの投げたブーメランはあっさり外れた。
それどころか魔獣の一撃で真っ二つに割れた。
マジかよ!オレは焦りに焦った。
「坊主、危ないから早く逃げろ!」
言われなくても逃げるって!
オレは遊撃士の2人が気をひいた隙に駆けだした。
ところが逃げてみれば周りを魔獣に囲まれていた!
2人も気付いたみたいで直ぐに俺を止めた。
「どうする?これは2人じゃキツイわよ」
「ああ、俺も今どうしようかと思ってさ」
「少なくともこの子は逃がさないと……」
じりじりと輪を狭めてくる魔獣の群れ。
オレは、初めて迫りくる死の恐怖を味わった。
「大丈夫だ、俺達が絶対守るからな」

 その声は、不思議とオレを安心させた。
昔父さんが同じ事を村の皆に言っていた。
父さんと全然似てないのに同じくらい感じる安心。
何なんだろう、この感じは。
オレが不思議な気持ちについて考えている間にも
魔獣はどんどん迫ってくるけど、オレは怖くなかった。
2人は目を合わせると女の人の方が軽くうなずいた。
その合図が何なのかは直ぐに分かった。
2人は同時に前後に分かれて魔獣に突っ込むと、
女の人がオレを引っ張って囲みの外に連れ出した。
「ちょ、ちょっと?!あの人は?!」
「ちょっと離れてないと危ないから」
「危ない?」
次の瞬間、魔獣の周りの地面が揺れ始めた。
「な、何?!」
オレは何がなんだかさっぱり分からなかった。
「あれはオーバルアーツ。
巻き込まれるといけないからここでじっとしてて」
オレは黙ってうなずいた。
女の人も懐中時計のような物を取り出した。
それが光ると炎が飛びだして魔獣に向かっていく。
「す、凄い……!」
オレは魔獣に囲まれている危険なんか忘れて
初めて見たオーバルアーツに釘付けになった。
片方がアーツを詠唱中にもう片方が武器で攻撃。
流石プロ、コンビネーション抜群だぜ!
白熱した戦いにオレは自分の危機的状況を忘れた。
くそ、オレもブーメランがあれば参加するのに。

 次々発動するアーツと巧みな攻撃で、
魔獣の囲みは大分減った。
でも幾らなんでも数が多すぎる。
2人とも武器は中距離だから今のところ無傷だけど
何度かアーツが発動するまでに危ない場面もあった。
おまけに魔獣は時々仲間を呼ぶし。
2人も流石に決め手に欠けると思っているみたいだ。
男の人がアーツを発動させようとした時、
背後から魔獣が飛びかかってきた。
ちょうどその時別の魔獣が俺達と出くわした。
女の人の方はそちらで手一杯で助ける余裕がない。
まずい!3人とも同じ事を思ったと思う。
その時後ろからバンと言う音が聞こえた。
そして跳びかかった魔獣がばたりと倒れた。

■猫好きおねいさん

【タイトル】 遊撃士が町にやってきた 4
【作者】 アルト・タップル

「2人とも大丈夫?!」
現れたのはまたもや男女の2人組遊撃士だ。
男の人が長い筒状の物を構えると、
魔獣の囲みを次々に崩していった。
女の人はアーツを詠唱する体勢を取ると、
今までのとは段違いの雷の嵐で魔獣を全部やっつけた。
「すっげ〜〜〜〜〜!!」
オレはすっかり遊撃士の手際の良さに感服していた。
 魔獣がいなくなってようやく人心地つくと、
顔見知りの男遊撃士が口を開いた。
「正直助かった。でも2人がどうしてここに?」
「帰りが遅いから様子を見に来たんだ」
「そしたら案の定ピンチじゃない。
全く、2人のアーツは相変わらずねえ」
「うっ、俺達は補助程度で十分なの」
「さっきはアーツが大して効かなくて困ってたくせに」
安心して気が緩んだのか、オレは地面にへたり込んだ。
「大丈夫?どこか怪我でもした?」
「いや、ただちょっと気が緩んで……」
オレはしばらく座り込んで、少しして立ち上がった。
「大丈夫?しばらく休んでいてもいいわよ?」
「ううん、もう大丈夫。
その、さっきは助けてくれて、ありがとう……」
「何だ、改まって。そういや、前にも助けたけど、
お礼を言われたのは今日が初めてだな」
「だってずっと遊撃士の事が気にくわなかったんだ」
「何で?」
「だって、最近ぱっとやって来たあんたらに
便利屋の仕事取っちまったんだぜ?いい気はしないよ」
「あら、そうだったの?便利屋自体知らなかったわ」
ガクッ。オレの事なんて何にも知らなかったのか。
勝手にライバル視してた俺は何なのさ……
「そもそも坊主は何でそんな仕事してるんだ?」
「元々父さんの仕事だったんだ。
でも、前山に魔獣が出た時に木こりの人を助けに行って
それで大怪我負って……」
「……そうか」
「……父さんが何で危険なことしたのか
分からなかったから、分かるまで仕事しようって。
でも、今なら少しは分かるかもしれない」
さっき助けてもらった時に感じた安心感。
きっと父さんは村の皆にあの感じを与えたかったんだ。
あの時、父さんの言葉に安堵した皆の顔を覚えている。
「オレさ、ちょっとはあんたらのこと見直したんだぜ?
ま、父さんに比べりゃ頼りないけど」
「そりゃどうも」
「……だからさ、これからはオレも協力してやるよ」
「へ?」
「幾らプロでもここに来たばっかりのあんたらに
何でもかんでも出来るとは思わないし、
これからは敵対せずに協力しようってこと!」
「誰も君と敵対してないんだけど?」
「……気分の問題!ほら、早速山を案内するよ」
「それは助かるな。よろしく頼んだぜ、坊主」
「坊主じゃない!」

 その日からオレは遊撃士と協力するようになった。
と言っても相変わらず買い物や薪割りや子守だけどな。
でも、オレは父さんを越える便利屋—
遊撃士を目指して頑張ってるんだ。
「ベルナート!大変今日はスーパーの特売日だわ!」
「オッケー、早速行ってくるよ!」
オレはいつも以上に大声で返事をして町へ駆けだした。


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