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■GLM

【タイトル】 神狼の午睡
【作者】 GLM

 ヴァルドは、仁王立ちだった。

 派手な赤の上着。
大柄だが無駄な肉のないその姿は、肉厚の鉈を思わせ
る。
旧市街の広場の一隅、小春日和と言っていいぽかぽか
の日差しを浴びて静かに佇む彼は、マフィアすら恐れな
い不良チーム「サーベルバイパー」のリーダーだ。
他のチームと抗争を繰り返しているとは言え、ここ旧
市街はヴァルドの縄張りであり、彼がここにいることに
何ら不都合はない。
普段と違うところがあるとすれば、腕組みで注いでい
る鋭い視線の先だ。
真っ白な毛並み。犬に似ているが、体躯があからさま
に大きい。仔牛ほどもあるだろうか。
魔獣の一種とも思えるような巨大な狼。そいつが日当
たりの良い草むらに寝そべっている。目を閉じて腹をゆっ
たりと上下させているところを見ると昼寝中のようだ。

 危険な相手ではないことは知っている。近頃、警察の
マントを着たガキと連れだって歩いているのを何度か見
かけている。旧市街のガキどもが抱きついて遊んでいる
のも、一度ならず目にした。
常に警察の連中と一緒というわけでもなさそうで、単
独で出歩いていることもある。
だから、コイツがここで微睡みに浸っていることには、
ヴァルドは疑問を抱いてはいなかった。

 犬は、好きなのだった。

 犬はいい。
主に忠実で、躾ければ命令をきっちり守る。
ヤツらは、群れのなんたるかがわかっている。
強力な統率者に率いられ、その意を承けて動く。その
単純なことすらできない人間は、犬に劣るとすら思う。
そして、尻尾を振って飛びついてくるその目の輝き、
甘えた鳴き声の心地よさと来たら、もう、これが……!
いやいやいやいや。
思わず周囲を見回して、誰にも見られていないことを
確かめてから、ヴァルドは白い狼に視線を戻した。

 顎の下を撫で回したい。
柔らかそうな毛に顔を埋めたい。
思うがままに「もふもふ」したい!

 険しい表情で隠し、ヴァルドはそんな衝動と戦ってい
るところなのだった。
だが、敵は見るからに気高そうな狼だ。
人と交わってはいても、人の下風に立ってはいない。
コイツからはそんな、誇り高い野生の匂いがする。
それは、ヴァルド自身が常日頃から肚に収めた覚悟と
相通じる在り方であり、なればこそ触れることを躊躇う
侵し難さを感じるのだった。
それでも、少し撫でるだけなら……いや……。

 ヴァルドの葛藤をよそに、狼は不意にあくびをした。
立ち尽くすヴァルドには目もくれず、大きく伸びをし
て、のそのそと旧市街の出口に歩き出す。
「あ……」
つい漏れた声に反応したわけでもなかろうが、立ち去
り際に、狼はちらと一瞥をくれた。
そして尻尾を一振り。

 まごうことなき、「頭」の風格を漂わせる姿を見送り
ながら。
(た……たまらねェ……)
ヴァルドは心中密かに打ち震えるのだった。

 

 ところで、薄く頬を染めたその不審な姿は、物陰から
ニヤニヤと覗き見ていた少年に、ばっちり目撃されてい
たりして。


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