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■早苗

【タイトル】 CALL YOUR NAME
【作者】 早苗

 大丈夫だから。

 大丈夫だから、ミーシャ、傍にいるから。

 身体にも顔にも酷い火傷を負った妹に向かって
何度もそう語りかけた。
俺は焦っていた。

 とにかく早く手当てをしなければと思った。
未だ爆撃は続いていたが、そんな事は
どうでもよかった。
薬は…果樹園の物置にあった筈だが、遠目に見る限り
そこも燃えている。
村長の家にはあるかもしれない。
しかし取りに行く時間も惜しい。間に合わない。
一番早い方法を考えるんだ。最良の選択を。
きっと方法がある筈なんだ。
切り抜ける道がきっとある筈なんだ。

 ふと、ミーシャの手が俺の頬に触れた。

 驚いて、妹の顔に視線を落とす。火傷が痛々しい。
でも、瞳は見慣れたミーシャのものだった。
12年間ずっと見てきた瞳。
なんだか今は不思議な色をしていた。

「どうした、ミーシャ」

 無理矢理笑ってみようとした。
でもきっと上手くいってない。

「お兄ちゃん…」

 消え入りそうな小さな声。コイツに似合わない。
いつも俺より元気だった癖に。こんなのはおかしい。

「お兄ちゃん、泣かないで」

 そして唇が動いた。だいすき、と。

 

 —最初から

 —もう、助からないと解っていた。

 

 泣かないでと言われたのに俺は泣いていた。
妹の前で泣くとか兄貴として格好悪すぎる。

「ミーシャ」

 名前を呼んだ。

「ミーシャ。…ミーシャ。ミーシャ」

 愛しているから名前を呼んだ。

 このまま時間が止まればいいのに。
そして時間が巻き戻ればいいのに。そうすれば
俺は絶対に手を離さなかったのに。

 俺にはこいつしか居なかったのに。たった一人の、
守るべき家族だったのに。

 

「アガットさん!」

 日に透ける長い金髪と青い瞳。チビスケだ。
…ああ、俺、寝てたのか。

「アガットさん、寝る時はちゃんとお腹に何か
かけて寝ないと風邪を引いちゃいますよ!
ところで、お昼ご飯を作りましたので一緒に
下に行きましょう〜」

 こっちに向かって笑顔で手をヒラヒラさせている。
…何だ?ああ、手を繋げってことか…
嫌に決まってるだろ。

「はうぅ…」

 あからさまにガッカリした様子だが無視しておいた。
子供というほど子供でもねぇしな。

 遊撃士協会の階段を降りると机の上に
サンドイッチが用意してあった。
何だか具材の種類が豊富だ。
しかしチビスケが真剣な目で俺の動向を見ている…。
…これに何が仕掛けてあるんだ?油断ならねぇ。

「…ふぇ?全部嫌いですか?

 ……どれから食べてくれるかを見たら
アガットさんの好きなものが
分かるかと思ったのに」

 私まだアガットさんの事全然知らないです。
いっぱい教えて欲しいです。そう言ってチビスケは
照れたように下を向いた。

 ミーシャには全然似ていない。
髪の色も。瞳も。魂の在り方も。全く。

「…何でお前は俺に懐いちまったんだか」

 チビスケは妙に真面目な顔をして、覚悟を
決めたように頷いた後、微笑んだ。

「だいすきです」

 全く似ていないのに。鮮明に思い出す。
もう10年も前の事なのに。

「ティータ」

 名前を呼んだ。

 妹とは違う存在を、確かめるように。


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