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■蓮華

【タイトル】 ニコルの新しい朝
【作者】 蓮華

 「ちょいと、そこのお兄さんいいっすか?」
 不意に後ろから呼びかけられ、朝のジョギング中だっ
たニコルは振り向いた。
 そこには深緑色の動きやすそうな作業着に身を包んだ、
ニコルと同じぐらいの年の青年が、ダンボールをつんだ
リヤカーを倒れないように足と手で押さえながら立って
いた。
「何ですか?」
 青年の右肩に刺繍されている「カプア運送会社」とい
う字を見ながら「配達かな?」と思いながらニコルが聞
いた。
「あのですねぇ、"特務支援課"の分別ビルってどこに
あるかご存知っすか?」
 ニコルは胸がズキッとなるのを感じた。
「いやぁ〜実は・・・・あれ?」
 青年は話すのをやめニコルの顔をまじまじと見つめた。
「お兄さん・・もしかしてニコルさんじゃあ、ありやせ
んか?アルカンシェルの。」
「え、あ、まぁ、そうですけど。」
 ニコルが答えると青年はうれしそうな顔をし、リヤ
カーを離してニコルの手をがしっと掴んだ。
 「な!?」と驚くニコルを尻目に青年はさらに掴んだ
手を上下に揺さぶりだした。
「いやぁ〜、こんなところで会えるなんて!俺、ニコル
さんのファンなんすよっ!感激っす!!」
 ファン、という言葉を聴きたじろくニコル。しかし、
その心の中ではお風呂に入ったときのように何か暖かい
ものがじんわりとにじみ出てくるのを感じた。
 それと同時に、何か暖かいものが頬を伝う。
「え?えぇぇ!?ど、どうしたんすっか!?俺が悪いっ
すか!?」
 突然のニコルの変貌に今度は青年がたじろいた。
「いや・・。違うんだ。俺、前してはいけないことに手
を出して、皆にすっごく迷惑かけたから、だから・。」
「そんなんで、泣いてちゃだめっす!」   
 青年が突然、大声を出した。ビックリするニコル。
「人は、誰にも迷惑をかけずに生きることなんて不可能
なんすよっ!人は、いい出会いと変わろうと思う心があ
れば誰だって変われるっす!」
 と、青年は一気に言い放った。そして、とびっきりの
笑顔でニコルに微笑むと、「その道の先輩からのアドバ
イスっす!」と、言うとリヤカーをつかんで走り去って
いった。
 ポカンと一人残されるニコル。 
 もう、涙は止まっていた。
 青年の消えた方向をしばらく眺めていたニコルは、
ハッとなり、走りながら叫んだ。
「"特務支援課"の分別ビルの場所、わかってるんです
かぁーーー!?」
 太陽が顔を出し、また新しい一日が始まった。

■蓮華

【タイトル】 (アルセイユ+ユリア)×ケーキ=?
【作者】 蓮華

「邪魔するでぇ〜〜」
 独特の話し方の商人、ミラノがここ「R&Aリサー
チ」に入ってきた。
「ようこそお越しくださいました、ミラノさん。」
 そんな彼女を迎えたのは桃色の髪に狐のように細く、
少々つりあがった目が特徴のカノーネ・アマルティア秘
書だ。
 ミラノは礼儀正しく迎えたカノーネ秘書を見て、「あ
かんなぁ。」と漏らした。
「あかんなぁ、カノーネちゃん。"邪魔するで"って
言ったら、"邪魔すんなら帰ってや"って言わな。常識
やで、ホンマ。」
 カノーネ秘書はそんなミラノに、「恐れ入ります。」
とあっさりと返した。どうやら、慣れているようだ。
 その隣ではアラン・リシャール所長が二人のやり取り
を面白そうに眺めながら立っていた。
「本日はどのような御用で?」
「あぁ、今日はな以来とちゃうんよ。これこれ。」
 ミラノが取り出したのは小さな紙の箱だった。
「ケーキ・・・ですか?それは。」
 カノーネ秘書が首をかしげながらミラノに尋ねる。
「せや」とミラノはうなずいた。
「これ、今度オルド自治州で売ろうかと思っとんねんな。
んで、所長とカノーネちゃんにこのケーキの商品名を決
めてほしいんや。どや?」
「商品名・・ですか?」
 カノーネ秘書とリシャール所長は顔を見合わせた。
「まぁ、いつもお世話になっとうからそのお礼とおもて
くれてええよ。とにかく、見るだけでも見てくれや。」
 そういうミラノに押され、三人は二階へと上がり、カ
ノーネは成り行きで紅茶を入れた。
「これがそのケーキや。」
 そこには、真っ白なクリームの上にチョコペンでリ
ベールが誇る親衛隊所属艦アルセイユ号が描かれていた。
その周りにはイチゴなどのベリー類のフルーツが鮮やか
に飾られていた。
「これは・・・。」
 そのケーキの繊細さに感動するリシャール所長と、自
分のライバルのユリア・シュバルツ大尉を思い出して目
つきがさらに鋭くなったカノーネが同時につぶやいた。
「どや?すごいやろ。こういうのが今は皆欲しがっとう
と思うんよね。アルセイユ、人気やし。」
「私にいい名前がありますよ、ミラノさん。」
 カノーネ秘書が手を上げて言った。そして、ミラノに
そっと耳打ちした。

 それから数日後、オレド自治州およびリベールにはこ
んなチラシが配られた。
「リベールの親衛隊所属艦アルセイユ号が描かれ
た、"アルセイユリアケーキ"本日発売!!」


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