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■親父フェニックス

【タイトル】 天敵
【作者】 親父フェニックス

エステルは武器の手入れを止めて呟いた。

「どうしてあたしの戦術オーブメントは
属性の縛りがないのかな?」
「いきなりどうしたの、エステル」

 同じく作業していたヨシュアは
顔を上げてエステルを見やる。

「自分の使っている物についての知識って大事でしょ?
それで思ったの。ヨシュアのオーブメントは
属性限定スロットが二つあるでしょ。
でもあたしのにはないの」

 その言葉にヨシュアはじんわりとした感動を覚えたが
外に出すことはしなかった。話が抉れるだけだし、
その問いに興味があったからだ。

「戦術オーブメントは個人の資質で異なるから、
キミの特性、ということになるけど……」

 そこで言葉を止め口元に手を寄せた。
その特性とは具体的になんなのか、
ヨシュアにもわからなかったからである。

「シェラ姉とかクローゼとか、皆特定の属性スロットが
あるからあたしの方が珍しいのかもしれないけど……」

 一度気になったら解決するまで悩むのがエステルの
性分である。
視線を上に向けながら唸るエステルに対し、ヨシュアは
目を伏せて思考の海に潜った。

 やがてエステルの頭がショートしそうになったところ
でヨシュアは口を開く。現実性を欠いていたが
ヨシュアはそれ以外の答えを見出せなかった。

「——エステルは、きっと選ばれたんだと思う」
「選ばれた……?」

 首肯して言葉を紡ぐ。

「僕達と七耀石には相性があって、
僕にとってはそれが時の黒曜石。それは言い換えれば、
僕が黒曜石と同じベクトル、同じ要素を持っているって
ことなんじゃないかな」

 スロットの属性限定はその人を判断する一因になる。
気性の荒い者は火、癒しや涼しさを持つ者なら水と、
本人を知っていれば納得のいく限定なのだ。
それは正しく特性と言える。

「七耀石はそれぞれ違う系統を担っていて、その七つは
世界の核とも言える概念だよね。だから僕達が
その概念のどれかと同じ要素を持っていても
不思議じゃない」
「でもそれだとあたしは——」
「そう、エステルのオーブメントはどの属性にも
縛られない。
それは世界を構成する七つの要素の全てに
捕らわれていない、完全な自由だ」

 自由、とエステルは呟く。
漠然としすぎていてよくわからなかった。

「世界に縛られないキミはきっとどこまでも、
世界の果てだって行けるかもしれない。
そんな可能性を与えられた。
そういうことじゃないかな」

 そう言ってヨシュアは微笑した。それはとても
美しかったがエステルはムッとした顔をする。
そして当たり前のように言い放った。

「あたしがどこか行くなら、
ヨシュアも一緒だからね!」
「え?」
「まるで自分は一緒に行けない
みたいな顔しちゃって……あたしがヨシュアを置いて
どっかに行くわけないでしょ!」

 腕を組んでそっぽを向くエステルに対し
ヨシュアは一瞬呆けた後頬を掻き、自分に呆れた。
まだまだ自分は彼女には勝てないらしい。
しかし悪い気は少しもしなかった。

 だから今度は
エステルが赤面する顔で素直な感情を表した。

■親父フェニックス

【タイトル】 七耀石の煌きは……
【作者】 親父フェニックス

 『それ』がどうしてそこにあったのか、
意思を持たない『それ』にはわからない。
仮に理解していたとしてもそれを他者、つまり
『それ』以外の全てに伝える術はありはしなかった。
 だから『それ』には何もなく、
しかし世界には確かに『それ』はあった。
 真実はただそれだけであり、
その真実すら物言わぬ『それ』にはわからなかった。

 『それ』が他者、つまり『それ』を有るものと認識
できる存在と邂逅したのは、
『それ』が誕生してから長い月日が経ってからだった。
年月の経過はそれを定義づけた存在にだけ
認識されるものであるから
当然『それ』には何の意味も持たないが、
しかし世界の事実として物理的時間は経過していた。
物言わぬ、意思すら持たない『それ』は
他者に発信するものは何もない。
しかし確かにその存在を主張していた。
それは他のものにはない異質な輝き。
魔に魅入られたように釘付けにさせる光。

 地面を走る龍脈の流れに不思議と沿うように
集まっていた『それ』はその存在に認識されたと
同時に『それら』となり、
そして区別のために名称を与えられた。

 名称など『それ』にとっては何の意味も持たない。
それが意味を持つのは、『それ』に固有名詞を
つけなければならない理由をもった存在だけだ。
だから『それ』が大別して七耀石と言われるように
なったことは『それ』には意味を持たないし、更に分化
して金耀石と言われていることも認識できなかった。
あるのはただ外界に放つ異質な光と力だけである。

 意思を持たないのは当たり前だ。
『それ』に金耀石と名づけた存在にとって『それ』は無
生物と呼ばれる括りの石という鉱物の一種なのだから。
無生物と交信する術を持たないその存在にとって
『それ』はただの石であり、鉱物であり、
そして未知の物質だった。
何かの力を持っているとその存在が仮定したのは、
偏にその輝きに言い知れない何かを
感じ取ったからかもしれない。

 七耀石の一種、金耀石の一つである『それ』は
意思を持たない。
しかしその存在は確かに他の存在に干渉していた。
同種の光に魅入られるのは
名称をつけた存在だけではない。
その光という魔に引き寄せられるものが
多くいる時点で、
確かに『それ』は世界の歯車の一つなのだろう。

 『それ』は考えるという行為を知らない。
だから
『それ』の存在意義を『それ』が知ることはない。
『それ』の存在意義は考えるという行為が可能な存在
によって都合のいいように解釈された。
それでも『それ』には関係がない。
その解釈すら聞こえないのだから。

 しかし仮に、『それ』に考える意思があったならば。
その解釈に異を唱えるのだろうか。
違うのだと言うのだろうか。
無駄な仮定だ。『それ』には意思はない。
意思を持つ必要性がないのだから。

 だから、『それ』が持っている必然性はただ一つ。
『それ』は確かに必要とされて
この世界に存在している、という事実。

 意思を持たない『それ』はしかし、
それだけは確実に持っている。


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