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■夢之一片

【タイトル】 薬師タイムと神様の一日
【作者】 夢之一片

 とある村に一人の薬師がいました。
 彼の名前はタイム。誠実で真面目、ただそれだけが取
り柄でした。なぜなら他にも知識の豊富な薬師が他の村
に行けばたくさんいたのです。
 せいぜいが風邪薬や擦り傷に付ける薬くらいしか店に
置いていないくらいです。
 けれどその取り柄もあって村のみんなに人気もあり、
良心的な薬の金額や良く効く薬として他の村からも傷薬
だけを買いに来るなんて人もいました。
 なんでもっと色んな薬を売ったりしないのかと誰かが
質問すると、そんなタイムは常々こう言います。

「僕の仕事が無いのは平和な証拠なんだよ。」

 しかしそんなタイムの所にある知らせが来ました。
近頃、近隣の村で流行り病が出始めたとの知らせで、
多くの薬師がさじを投げているらしいのです。
原因も分からず治療薬も無い状態で、中には祟りだと
言い出す者も出てきました。
またある患者は、おとぎ話で聞く幻の薬草があれば!
と騒ぎだすのでした。

 この地方には昔から色んなおとぎ話に神様が登場し、
その神様が食べる草花を神草と呼んでいました。
神草は神様が食べるという事から万病に効く薬草だと
言われるようになりました。
しかし誰も実物を見たことがないし、おとぎ話の中で
は神様しか行くことが出来ない高い場所に生えてると言
われているのです。
これが幻と言われ、誰もがあてにしない理由です。
でもタイムはそれを信じて、神草を探しに行くと申し
出ました。

「僕が行くよ。僕が神草を持って帰るよ。」

 誰もが無茶だと止めようとしましたが、タイムは聞き
ませんでした。
大きなリュックに食糧やら薬などを詰めてすぐにでも
探しに行こうとするのです。

「おいタイム、神草の場所に心あたりあるのかよ?!」

「うん、とりあえず北西の山に行こうかと思ってる。」

 確かに村からかなり歩いた所に険しい山道のある高い
山がありました。
しかし普段から霧が濃くて、とてもタイムには登れる
とは思えない山なのです。
しかもその山には凶暴な獣まで出るとよく噂される程
危険な山です。
それでもタイムは頑として周りの説得を聞かず、つい
に村を出てしまいました。

「僕が必ず…みんなを助けてみせる…」

−−2日後、山の麓にようやくタイムは着きました。

 麓からすぐに急なこう配で、タイムはかなり参ってい
ました。
思いのほか霧も深くて、山道には石やら蔦がたくさん
あってタイムは何度も転んでは起き上がっては少しずつ
登って行きました。
しかしそんな諦めないタイムの心意気とは逆に、山道
はだんだん険しく細い道となっていきました。


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