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■FreeFall

【タイトル】 RPG
【作者】 FreeFall

 暗い魔界に魔王はいました。
 数百年間、魔王は人間界侵略の機会を待っていまし
た。
 魔王は人間が住む世界を覗きました。
 ちょうど、そこでは4人の勇者たちが別の魔王と激
しい戦闘を繰り広げている最中でした。
 魔王がはらはらして見守っていましたが、勇者たち
の方が優勢です。
 勇者4人で合体呪文を唱え、戦っていた魔王を葬り
去りました。
 やられる瞬間、勇者と戦っていた魔王は最期の言葉
を放ちます。
「ワタシを倒しても、第二、第三の魔王がやってくる
だろう!」
 それを見ていた魔王は少しほっとしました。
 少ししてから、すくっと立ち上がり対勇者用の邪悪
な魔法を練習しました。

 5世紀くらいたった頃、魔王はずいぶん成長してい
ました。
背中には蝙蝠のような羽が生えました。
額にあった触覚からは勇者たちを石に変えてしまう
光線が出せるようになりました。
鋭くとがった鋼鉄の爪は自慢の武器です。
魔王は意気揚々と、人間界を覗きました。
そこには上半身を氷付けにされ、下半身を石化され
た上に左胸に勇者の剣を刺されている知り合いの魔王
が倒れていました。
その周りには感涙に咽ぶ4人の勇者たちがいます。
それを見ていた魔王はため息をつきました。

 それから千年後、また魔王は人間界を覗こうとして
いました。
魔王の腕は4本になっており、指先からは雷と炎が
出ます。
口からは猛毒の煙を吐けるようになりました。
もちろん爬虫類のような尻尾も生えていました。
魔王は人間界と魔界をつないでいる穴の前に立ち深
呼吸をしました。
まだ、目は開けていません。
2秒後、そっと目を開けて人間界を見ました。
「兄さん、まさかあなただなんて!」
「そうさ、俺だよ!魔王を操り、世界を征服しようと
していた影の侵略者はなぁ!!」
魔王の亡骸の傍で、人間達が叫びあっています。
魔王は持っていた髑髏の杖を放り出し、しばらく不
貞寝をすることにしました。

 最近、手下のドラゴンを召還するのが苦手になって
きました。
若々しかった紫色の肌も艶がありません。
心なしか目も霞むようになりました。
憂鬱な気分を晴らすために、遠くにある山に火炎弾
を飛ばして過ごす毎日です。

 もっと早く、人間界に行くべきではなかったのか?
チャンスはあったはずだ。
いや、あのタイミングはない…
もう遅い。
いや、まだ間に合う。
今、出て行ってもなぁ。
今更、失うものなんて何もないじゃないか。
さあ、立て、立つんだ!

何百、何千、何万回目かのため息が出ます。

 人間界を覗ける穴はしばらく見てはいません。
何の気なしに、見下ろしました。

 来ました、来ました、このタイミングです!
待ちに待ったこのチャンス!
魔王は急いで黒いマントを羽織ると、人間界に降り
立ちました。
「さあ、恐れ戦くがいい!貴様らの世界の終焉を告げ
に来てやったぞ!」
勇者達が驚愕の面持ちで凍りつきました。

■FreeFall

【タイトル】 アイテム
【作者】 FreeFall

 ある町にある武器屋。
 閉店時間後、主人は店を閉め帰路に着きました。
 しばらくすると、武器屋の店内にひそひそ声が聞こ
え出します。
「あー、今日も売れのこちゃったよ。」
「まあ、明日がんばろう。
 …がんばっても仕方ないけど。」
「暗いよ。」
「いいじゃん、あんたは出戻りなんだから。」
「そうだよ。
 どこかの戦場で使ってもらったんだろう。」
「戦場ってほどじゃないけど。
 そうだな、なんだかんだ楽しかったかな。」
「でも、何で帰ってきたの。」
「ご主人が戦わなくなったからだよ。」
「…亡くなったの?」
「いや、戦う必要がなくなったんだって」
「どうして?」
「戦いの代わりに平和ってのになったんだって。」
「どうして?」
「わかんねーよ、そんなこと。」
「…」
「僕たちは必要ないのかな?」
「どうだろう…」
「…」
「だから暗いって。」
 夜は更けていきました。

 しばらくして、武器屋は店をたたみ、工具を扱う店
に変わりました。
閉店後に店に声が聞こえます。
「あのー」
「…やっぱり、ですよね!」
「あー、やっぱりそうですか、いつぞやの。」
「お久しぶりです。いや、懐かしい!」
「だいぶ雰囲気変わりましたね。」
「そりゃそうですよ。時代が変わりましたからね。」
「そうですよね。今はやっぱりこうでなくては。」
「ですが、あれですよ。」
「なんですか?あれって?」
「…ご存じない?そろそろだと思うんですが。」
「?」
その直後、東の空が一瞬光り、続いて地面から低く
重い音が轟いて来ました。
「なんというか…」
「人間のやることはわかりませんな…」
東の空は赤く、赤く輝いていました。

 店の建物は破壊され、建て直されることはありませ
んでした。
しばらくして、初老の男がそこにぼろぼろの商店を
開きました。
商品は農業用品を少しばかりと、生活必需品。
やがて、周りに似たような店が並び始めたある日。
男は店番をしながらうとうとしていました。
陳列されている商品のあたりから声がします。
「いい天気じゃな。」
「ですな。」
「以前会いましたかの?」
「どうでしょうな…。
あまり昔のことは覚えていませんので。」
「そうですか。まあ大切なのは今ですよ。」
「ですな。」
一人の若者が商店の前に立ちました。
初老の男はうっすらと目を開けました。
若者はしばらく商品を見ていました。
ひとつの道具を手に取り、値段を尋ねました。
男は答えました。高くも安くもありません。
若者は硬貨を何枚か渡し、商品を受け取りました。
「行かれるのですか?」
「そのようですな。」
「そうですか。ではまた。」
「どこかで。」
若者は歩き出しました。
来た道ではなく、これから行くべき道を歩き始めま
した。


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