≪前頁 ・ 第7回展示室へ戻る ・ 次頁≫

■カモミール・JK

【タイトル】 ねこまんま
【作者】 カモミール・JK

 吾輩はコッペである。
 クロスベルの中心街にあるオンボロビルの屋上に
住んでいる。
 静かだったこのビルに次々と荷物が運び込まれ、
五人もの人間が住み着いた。若者四人とオヤジ一人だ。
 屋上にも雑音が届いてうるさいが仕方ない。
 先住民に挨拶する礼儀も知らない奴らだ。
 いや、奴らの鼻ではここがコッペさまの
根城だとは気付かないのだろう。

 ところが翌朝、若者四人が屋上へ上がってきた。
「あら、かわいいネコちゃん!」
背の高い女性が満面の笑顔で我輩を覗き込む。
ネコちゃんではない。吾輩はコッペである。
渋面で睨みつけると背後の杖を持った少女が
納得顔になった。
「この子の名前がわかりました。コッペです。」
残りの三人に説明している。おいおいおいおい、
どうして分かった。吾輩、口に出して喋ってないぞ。
いや、その前に人が猫語を解するとは前代未聞だ。
内心の動揺を隠して杖の少女を見つめる。
少女は得意満面……ではないな。普通一番に
答えが分かったら人は得意そうに振舞うものだが、
この少女は余計な事をしでかしたような表情だ。
ふむ。人間とは不思議なものだ。

 奴らがまたやってきた。
「おはよう、コッペ。」
先頭の若者が言った。ちゃんと名前を覚えたようで
結構、結構。
「コッペちゃん、良かったらこれどうぞ。」
背の高い女性が申し訳なさそうな顔で吾輩の前に
食器を置いた。中には吾輩の大好きなねこまんまが!
おお、これはたまらん!
「にやゃゃあ〜〜〜」
完食。美味であった。素晴らしい腕前だ!最高だ!!
吾輩は尊敬の面持ちで女性を見上げた。もっと誇りを
持っていいのに、この女性も表情が神妙だ。
「ごめんなさいね失敗作を食べさせちゃって。」
何だって? 吾輩は理解できずに女性を見返した。
『エリィは自分が食べられない料理を作ってしまった
のです。あなたの口に合ったか心配しています。』
どこからか吾輩の頭の中に声が聞こえた。
目を丸くした我輩の隣へ、杖を持った少女が
腰をかがめた。ああ、この少女か。わかった。
吾輩は身を翻して屋上から飛び降りた。
胃袋の中のねこまんまが全身に力を与えてくれる。
吾輩は収穫品の隠し場所から取っておきの品を
くわえてビルへ戻った。
女性の前にその品物を落とす。
「まあ、これって。」
驚いた顔で女性がそれらを拾い上げた。
「魔獣の魚肉じゃねえか。しかも三つも。」
背後の男も驚いた様子だ。フフン、コッペさまの
とっておきだからな。吾輩は胸を張った。
「喜んでくれたみたいですね。」
少女が言った。
「ありがとう、コッペちゃん。」
女性が吾輩の頭を撫でようとするのを、ひょいと
飛び退いてよける。
馴れ合いは好まない。気持ちだけでいいんだよ。

 満腹で眠くなってきた。こいつらの前では
くつろいでも良さそうだ。吾輩はその場で丸くなった。
そっと立ち去る足音を聞きながら、
吾輩は心地良い眠りに落ちていった。


≪前頁 ・ 第7回展示室へ戻る ・ 次頁≫