■青水ユエ

【タイトル】 特務支援課の平々凡々な日々 〜午後〜
【作者】 青水ユエ

「そこだっ!!」

 

魔獣の攻撃をかわし、すかさず反撃へと転じる。
これまでに相当のダメージを受けていた魔獣は、
うめき声を上げて地へと伏した。

 

「よし、もう大丈夫だ。」

「これで街道も安全になったな。バスも通れるように
なるだろ。」

「では市庁舎に連絡を入れますね。」

 

東クロスベル街道の分岐点に現れた手配魔獣を倒し、
連絡をティオに任せて俺は捜査手帳にその仔細を
書き込んでいく。
バブリシザースG………以前にも戦ったことのある
魔獣だった。
その時は苦戦しながらも何とか勝てたものだったが、
今回は特に苦境に陥ることもなく倒せたように思える。
一度戦ったことのある相手だからなのか、それとも
自分達が強くなったのか。

 

「さて、手配魔獣を倒したのはいいけど、これから
どうするの?」

「そういえばアルモリカ村から支援要請がきて
いましたね。」

「じゃあ、このまま村に向かおうか。」

「そうね、徒歩で行きましょう。」

「はい、歩いて行きましょう。」

「少し待てばバスが来るってのに、徒歩を選ぶとは。
初めて4人で街道に出た時と違って、頼もしいねぇ。」

 

ランディのセリフを聞いて、特務支援課が出来たばかり
の頃を思い出す。
あの頃に比べたら、俺達も随分強くなったんじゃないか
と思う。
個々のポテンシャルはもちろん、仲間達との連携や
コンビクラフトのキレも。

 

「よし、アルモリカ村へ出発だ!」

 

だが、俺達はもっと強くならなくちゃいけない。
初仕事のジオフロントの魔獣退治から、何度も絶体絶命
の危機を向かえ、そしてその度にいろんな人に
助けられた。
このままでは………もっと強くならなければ、
大切なものを守り抜くことはできない。
この町を、そしてあの子を。二度と危険に晒したくは
ない。
クロスベルの長い一日は、あの一日だけで充分だから。
二人が進んで徒歩を選んだのは、きっと俺と同じ思いで
いるからだと思うのだ。

■青水ユエ

【タイトル】 特務支援課の平々凡々な日々 〜夕食〜
【作者】 青水ユエ

「ロイドー、みんな集まったよー。」

「よし、それじゃあ……………いただきます!」

 

『いただきまーす!』

 

などという食卓風景を見ていると、まるで家族のようだ
とティオは思う。
5歳の時に事件に巻き込まれ、ついに得ることの
できなかった『家族』と言う名の愛情。
その優しさとぬくもりが、確かにここにはあるように
思えた。
血の繋がりもない、全く別々の経歴を持った他人同士
なのに。

 

「ほら、口の周りにケチャップがついてるぞ。」

 

ゴシゴシ

 

「えへへ、ありがとーロイド♪」

 

キーアが特務支援課の娘の位置なら、ロイドがパパで、
エリィがママ。
優しくて真面目な両親といったところか。
自分はキーアの姉で、課長は不真面目なおじいちゃんで
ランディはお調子者の兄。
ランディの方がロイドより年上ということは、
ひとまずおいといて。

 

「ランディ。自室を空ける時は、必ず鍵をかけるように
しろ。」

「へ…?何ッスか、突然。」

「キーアがお前のグラビア雑誌を見ていたぞ。」

「キレイなおねーちゃんがいっぱいいたよ!」

「おっ、さすがキー坊! あのお姉さん方の魅力が
わかるなんて、こりゃ将来クロスベル市一の美人に
なるんじゃねえか?」

「そ、そんな本見ちゃダメだろ? キーアにはまだ
早すぎる!」

「早すぎるって…そもそも、女性が読む本でもない
けれど。」

「ロイドは読んでるの?おとなの絵本。」

 

ぶっ!

 

「きゃあっ!」

「ロイドさん、汚いです。」

「ご、ごめん。それよりキーア、その言い方は
ちょっと…。」

「何だ。間違ってはないだろう?」

「課長が吹き込んだんですかっ!」

「よーしキー坊、今度俺のとっておき、水着のセクシー
お姉さん大特集号を見せ」

「ラ・ン・ディ・さん? 教育上よろしくない本は
どこかへ隠してくださる?」

「スンマセン俺が悪かったです。だから、さん付けは
カンベンしてください。」

「隠したところで、キーアならすぐ見つけてしまう
でしょう。この際、燃やすというのは?」

「ティオすけ〜っ」

 

想像した通りの風景がそこにあって、思わずティオは
微笑んだ。

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