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■絵は描けませんの

【タイトル】 星空に見守られて
【作者】 絵は描けませんの

ロイドが屋上に出ると、そこにはエリィがいた。
「あ…。」
二人の台詞が重なり、気まずい空気が流れる。
エリィが気を利かせて、先に口を開いた。
「どうしたの?あなたが屋上に来るなんて、
珍しいのではなくて?」
「なんだか眠れなくてさ。風に当たりに来たんだ。」
「そう…。」
エリィは、手摺に近づくロイドを目で追った。
暫しの沈黙の後、再び彼女が口を開く。
「ねえロイド。太陽の砦に乗り込む前、
私がIBCビルで言ったこと、覚えてる?」
「え…?」
「あの時、ビル内にアナウンスがあったでしょう?
その直後のこと、覚えてる?」
IBCビル16Fでのことが、ロイドの頭をよぎる。
彼自身も、心にひっかかってはいた。
「…もしかして…
『今の続きは…すべてが解決した後にでも…』
って言ってた、あの?」
エリィは大きなため息をつく。
「なあんだ。ちゃんと覚えてはいるのね…。
あれから、何とか事件も解決して、
あと始末も済んで、やっと落ち着いたのに…。
あなたったら、ちっとも…」
エリィは苛立つ視線をロイドに向ける。
「ごめん。…その…あの時俺、調子に乗って、
あんなことまでしようとして…」
「あれがあなたの気持ちではないの?」
「え?」
「私、言ったわよね?『あなたが好き』って…。
あれはその答えではないの?
その気もないのに、あんなことしようとしたの?」
エリィの問いに、ロイドは力いっぱい否定する。
「違う!俺だってエリィのこと…ぁ…」
言いかけて、気恥ずかしくなり目をそらしてしまう。
「じゃあ、どうして謝るの?」
「その…エリィには、
やっぱり俺じゃ釣り合わないかなって…」
「それは…私がマクダエル家の人間だから?」
「………。」
困惑したようにエリィを見て何も言えなくなるロイドに、
彼女の表情は曇る。
「図星、みたいね…。
私は…せめて支援課のみんなの前では、
エリィ・マクダエルでいるより、
ただのエリィでいたいのに…。
特にあなたの前ではそうありたいのに!」
言いながら、涙が溢れ出る。
しゃくり上げながら、詰め寄るようにエリィは続ける。
「なのにあなたは、
『釣り合わない』なんて都合のいい言葉で、
私を遠ざけようとするの?
私から逃げようとするの?
私の気持ちに正面から向き合おうとしてはくれな…
ぁ!」
エリィの台詞が終わらないうちに、
ロイドは彼女を抱きしめていた。
そのまま彼が口を開く。
「逃げてるつもりじゃなかったんだけど…ごめん。」
抱きしめる腕に力を込める。
「…そんなに泣かないでくれよ。
ちゃんと受け止めるから。」
ロイドはそっと体を離し、
両手でエリィの頬を包み込んで軽く上を向かせると、
親指で彼女の涙を拭き取った。
申し訳なさそうな表情のロイド。瞳を閉じるエリィ。
彼の顔が彼女に近づいていく。
唇が触れあう直前、ロイドはささやいた。
「泣かせてしまってごめん。エリィ…」
彼の言葉に、また新たな涙が一粒、
閉じられたエリィの目からこぼれ落ちた。
流れ星が、夜空にひとすじの軌跡を描いた。

■絵は描けませんの

【タイトル】 星空に見守られて2
【作者】 絵は描けませんの

「何してんだ?ティオすけ。こんなところで。」
ランディの問いに、ティオは黙って右手の人差し指を
口に当て、静かにするよう注意すると、その指で
扉の外を指す。
ランディがそっと屋上を覗くと、エリィが泣きじゃくり
ながらロイドに詰め寄っているところだった。
一瞬で状況を悟るランディ。
(行け!ロイド!ここで行かなきゃ男じゃないぞ!)
心の中で叫びながら、ランディは右手の拳に力を込める。
その直後、ロイドはエリィを引き寄せ抱きしめた。
(よっしゃー!)
思わずランディはガッツポーズ。
ふと、複雑な表情をしたティオの横顔が彼の視界に入る。
「ティオすけ?」
ティオはハッとして、滲んだ涙を慌てて指で拭き取る。
「お前…ひょっとして、ロイドのこと…」
彼女は不安げな目でランディを見上げると、うつむいて、
ゆっくりと頷いた。
なぜか、ランディの前だと素直になれる。
「そっか…。初恋か?」
優しく問いかけるランディ。
再度、ティオはゆっくりと頷く。
「…初恋ってヤツは、なんでこう、実らねぇかなぁ…」
独り言のように、ランディは言う。
「ランディさんも、実らなかったんですか?」
力なく、ティオは尋ねる。
「まーな。今でこそ俺はこんなナイスガイだけどよ。
順風満帆な恋愛してきたわけじゃぁないんだぜ。」
ティオは一瞬クスッと笑うと、ランディに願い出る。
「ランディさん、少しだけ…少しだけ、肩を貸して
もらってもいいですか?」
「おうよ。
減るもんじゃなし。いくらでも貸してやるぜ。」
ランディの台詞に、ティオの両目からどっと涙が
溢れ出る。
ランディはティオの肩に手を添えると、
優しく自分の胸元へ引き寄せた。
声を押し殺して、彼女は泣いた。
ティオが落ち着くのを少し待って、ランディが
口を開く。
「なあ、ティオすけ。
いつか、誰もが振り返るような美人になって、
奴がお前を選ばなかったこと、後悔させてやろうぜ。」
ティオは涙を拭きながら顔を上げると、
ぎこちない笑顔を見せる。
「ふふ…。それもいいですね。
でも、私はエリィさんのことも大好きですから。
ロイドさんを後悔させる、という点については
賛成しかねます。」
「ほう?」
ランディが軽く両目を見開く。
「ただ、誰もが振り返るような美人になる、という
点については賛成です。
ふふ…。頑張りますね。」
そう言いながら見せた彼女の笑顔は、
既に誰をも惹きつけるものになっていた。
「おう。頑張れや。
そうすりゃ、誰もがうらやむ素敵な恋が待ってるぜ、
きっと。」
ランディはウィンクしながら言った。
「はい!」
小さな声で、だが力強く答えるティオ。
と、彼女は突然真剣な顔になった。
「あ、お二人が戻って来るようです。」
「おっといけね。見つかっちまうぜ。下に降りるぞ。」
ティオとランディは、ロイドとエリィに見つからぬよう、
足音を忍ばせ、それぞれの部屋へと戻って行った。


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