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■絵は描けませんの

【タイトル】 代え難きもの
【作者】 絵は描けませんの

「ランディ、ちょっといいかな?」
ドアの外からロイドの声がする。
「カギなら開いてるぜ?」
「ごめん。両手が塞がってて。」
「そっか…」
ランディはソファから立ち上がると、
自室のドアを開ける。
「ちょっとつき合ってくれよ。」
ロイドはコーヒーの入った2つのマグカップを、
両手で軽く持ち上げながら言った。
「あ?ああ、」
ランディは戸惑いつつも彼を招き入れる。
ロイドはテーブルにコーヒーを置くと、ソファに座った。
彼は何を話すでもなく、自分のコーヒーを手に取ると、
息を吹きかけ冷ましている。
暫しの沈黙。
耐えきれず、ランディが先に話しかける。
「ロイド、昼間のことなんだが…」
自分の手元を見つめたまま、ロイドは口を開いた。
「すまない、ランディ。…ひっぱたいたりして。」
「へ…?」
彼に先手を取られ、ランディは謝るタイミングを
逃してしまう。
ロイドは続ける。
「その…置き手紙残して1人で行くなんて…。
ランディにとって俺達って何なのかな?って思ったら、
無性に腹が立ってきて…。八つ当たりだよな。
…でも、今回の相手が『赤い星座』の元メンバー
だったからって、俺達に相談もなしってのは…」
彼は悲しげな視線をランディに向ける。
ランディは少し困った顔をして、静かに答える。
「奴は、かつて俺の小隊にいた。
しかも、直接俺に接触してきた。
ってこたぁ、これは私闘にあたる。
お前らを巻き込むわけにはいかねぇだろ?」
ロイドは手元に視線を戻す。
「人質を取った時点で、りっぱな犯罪だよ。
私闘にはならない。
まあ、だからこそ拘束もできたんだけど。
ある意味ラッキーだった。
でも、毎回こう運がいいとは限らない。」
彼は少し厳しい目でランディを見る。
「だからランディ、約束してくれ。
また今回のような事態が起きても、
絶対に1人で抱え込まないって。
今日は間に合ったから良かったけど、
俺は、仲間に何が起きているかも分からないまま、
失いたくなんかないんだ。」
ランディは目を閉じ、暫く考え、ゆっくりと目を開けた。
「わかった。…心配かけちまって、悪かった。」
「その台詞、俺だけじゃなくて、
明日みんなにも言ってくれよ。」
ロイドはそう言うと、飲みかけのコーヒーを
一気に飲み干した。
ランディもそれに続く。
ロイドは2つの空になったマグカップを手に取った。
「じゃあ。邪魔したな、ランディ。」
彼が部屋を出ようとすると、ランディが呼び止める。
「ロイド。」
「ん?」
ロイドは、ドアノブに左手をかけたまま振り返った。
ランディが自嘲気味に笑う。
「はは…やっぱり、お前のたらしっぷりには、
かなわねぇや。」
「え?」
「俺の横っ面張った時、
『こんなことで相棒を失いたくなんかない』
なーんて言いやがってさ。まいっちまうぜ。
…あの時、正直グッときたぜ。俺のここに。」
ランディは右手の親指で自分の胸を指し、
ウィンクしながら言った。
「はは…ありがとう。おやすみ。」
ロイドは照れくさそうに笑うと、ランディの部屋を
出て行った。

■絵は描けませんの

【タイトル】 約束の休日
【作者】 絵は描けませんの

「ティオ、今度はどこに行きたい?」
ティオの方に振り返りながら、ロイドは尋ねる。
「そうですね…。一通り廻ってしまいましたし。
ちょっと休憩したい気分です。」
「じゃあ、そこの噴水のそばのベンチで待っててくれ。
飲み物買ってくるよ。」
そう言うと、彼は屋台の方向へ走って行った。
2回目は2人で行こうと約束したミシュラムの
テーマパークに、ティオとロイドは来ていた。
柔らかな午後の日差しが彼女に降りそそぐ。
「はい、お待たせ。」
戻って来たロイドは、ラムネの瓶をティオに手渡すと
彼女の隣に座った。
「どうも。」
ティオは瓶を受け取り、さっそく一口。
「ふぅ…。美味しいです。」
満足げなティオに目を細めると、ロイドもラムネを
口に含んだ。自分の瓶に目を落とす。
「ラムネかぁ…。」
つぶやくロイドに、ティオは怪訝な顔を向ける。
「どうしました?」
「あ、いや…ちょっと思い出してさ。
前に、旧市街でレースをやったことがあっただろ?
その後、ティオとエリィでラムネを買ってきてくれた
のが、嬉しかったよなぁって。」
「ロイドさんの場合、エリィさんから直接手渡された
からではないですか?」
からかうティオに、ロイドは笑って答える。
「はは…そういう意味じゃなくて。
あの時、俺もランディもクタクタだったから、
2人のちょっとした心遣いが嬉しかったんだ。」
「たいしたことはしてませんよ?」
「うん。でも、最近思うんだ。
そういった小さなことを積み重ねて、
人間関係が深まっていって、
『絆』になるのかなって。」
考え込むように、ティオはロイドから視線をそらした。
「絆…ですか。」
「ああ。今の特務支援課が、そんな気がするんだ。
誰が欠けてもありえない。
そういった意味では、俺にとって、
ティオもかけがえのない存在なんだけどな。」
言い終わると同時に、
ロイドはとびきりの笑顔をティオに向ける。
何気なく彼を見上げたティオは、
その目に映ったロイドの笑顔に、
思わずラムネの瓶を両手で握りしめて
彼に背中を向けてしまう。
「あれ?俺、また何か無神経なこと言ったか?」
「いえ、そうではなく…」
ぎこちなく答えると、ティオはロイドにじとーっと
視線を向ける。
「まったく…そんなクサすぎる台詞を、
よく恥ずかしげもなく言えますね?」
「でも、ホントにそう思ってるし…。」
「やっぱりロイドさんはにぶちんです…」
「え?」
ティオのつぶやきが分からず、ロイドが聞き返すと、
彼女は正面に向き直る。
「何でもないです。」
ティオはすくっと立ち上がった。
「そろそろ帰りましょうか。」
「え?もういいのか?」
「はい。前回と今回、充分堪能しました。
ただ帰る前に、みっしぃのグッズショップに
寄りたいのですが。
キーアに何か買って行きたくて。」
「そっか。じゃあ、おみやげ買って、帰ろうか。」
「はい。」
ロイドは立ち上がると、ティオの手から空になった
ラムネの瓶を受け取った。
太陽が、午後の色から夕方の色へと変わりつつあった。

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