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■つきやま いつき

【タイトル】 とある夜のうた
【作者】 つきやま いつき

 夜ねむる 花にくちびる よせたれば
 夢の香にほふ 銀の朝露

「ふふふ」
オリビエは葡萄酒が注がれているグラスをゆるく回した。
「いいね、満天の星。
今宵は満月。」
グラスを傾け、天を仰いだ。
「仔猫ちゃんたちは、今宵もまた罪を贖う道を歩いているのだろうな」
口の中でゆっくりと味わう。
「さて、エステル君があでやかに華やぐのはいつの日か…
何だか妹と弟の成長を見守っている兄のような不思議な気分だな」 
オリビエは微笑む。
そして重厚なソファに立てかけてあったリュートを手に取り、爪弾いた。
どれくらい時間が経っただろうか。
長い間だった気もする。
でも。
一瞬のことだったかもしれない。
「ん?
……ミュラーか、時間かな?」
手を止め、振り返らずに窓辺にもたれたままオリビエは入室者に問う。
「あのな」
とミュラーはため息をついた。
「貴様はこれから大使と食事会だというのに、既に酒臭いとはいったいどういう了見
だ?」
「なあに、大使にとっちゃあいつものことだ。
それに」
「?」
「こんなに沢山の星がふる夜くらい、あの子達との旅を思い出すのも良いじゃない
か。」
ミュラーはオリビエのいる大きな窓の外を見た。
満月と満天の星。
「…あの二人には、また見える日もあるだろう」
「ああ、そう願いたいね。
そしてその時にはこの国が、リベールに恥じない国家になっていると良いのだが…」
オリビエは微笑んでソファにリュートを置いた。
「さて、辛気臭いオヤジとの食事、行くとしますか」
「お前な…」
まるで舞踏会にでも赴くような軽い足取りで、オリビエは部屋を出る。
刹那。
彼はオリヴァルト皇子の顔になる。
「さあ、行こうか、我々の戦場へ」


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