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■スキュラ

【タイトル】 ダドリー捜査官の決意
【作者】 スキュラ

「バニングス捜査官!!」
「よお、ダドリーじゃないか。どうしたんだ、そんなに
血相を変えて?」
「なっ、何を暢気なことを言っている!!」
 慌てふためく私とは対照的に、ガイ・バニングスは事
の重大さを理解していないのか暢気そうに応えていた。
「貴様が協力を要請したくせに、単独行動するなんて何
を考えているんだ!」
「悪い悪い。連絡はしようと思ったさ。だがな、機を逸
したらエレボニアへ逃げられてしまう可能性があったか
らな」
 彼の言うとおり、自分達が到着するのを待っていたら、
ホシは国外へ逃亡していただろう。
「だが、もし失敗していたら——」
 私の言葉を遮るかのように彼は、
「大丈夫だ!」
と力強く断言した。私は大きな溜息を吐くしかなかった。
「……次からは、単独行動は止めて、チームを組め!」
 通常の事件捜査はチームを組んで行う。だが、ガイ・
バニングスだけは常に単独で動く。それは、彼が飛び抜
けて有能な捜査官であるとともに、破天荒で型破りな捜
査に付いていける人材が滅多にいないからでもある。
 かつてのパートナーであるアリオス・マクレインは、
とある事件を境に警察を去った。
「はいはい。今追っているヤマが一段落したらな」
「……分かった。それで、どんなヤマを追っているだ」
「今は、まだ教えられない……」
 彼にしては、珍しく神妙な面持ちで答える。その様子
に若干違和感を感じたのだが。
「……婚約者もいるのだから、無茶はするな」
「おう」
 それが生きているバニングス捜査官を見た最後の姿
だった。
 翌日、バニングス捜査官は——殉職した。
 彼の死は捜査一課に多大な衝撃を受けた。いや、捜査
一課だけでなく、彼を知る者全てに衝撃をもたらした。
 当時、多くの捜査官は議員達の圧力によって、捜査が
侭ならないことに無力感を覚えていた。
 だが、あの男だけは違っていた。
 どんなに議員達からの圧力が掛かろうとも、決して腐
ることなく真実を追い続けていた。
 その姿を目の当たりにしたクロスベル警察は少しずつ
変化しているように思えた。
 バニングス捜査官は殉職したのは、そんな矢先のこと
だった。

 あれから三年の月日が流れた。
私は少しだけ時間を作って、クロスベル大聖堂の裏に
ある墓地を訪れた。そこには彼が眠っており、私はその
墓前に花を添える。
「まだ、貴様を殺害した犯人は見つかっていない。あの
時、貴様は何を追っていた?」
私が唯一後悔するのは、何故あの時もっと問い質そう
しなかったのか。そうすれば、このような事態には……
「いや、よそう。仮定の話をしても死者が生き返ること
はない。貴様が守ろうとしたこの街を守るために、私は
自分の職責を全うする。それが私なりの弔いだ」
もし、私がバニングス捜査官を超える日が来るとすれ
ば、それはきっとクロスベルが正義を取り戻した日。
その日が一刻も早く訪れさせることを誓い、私は墓前
を後にした。

■スキュラ

【タイトル】 キーアの誕生日
【作者】 スキュラ

 それはこの一言から始まった。
「なあなあ」
「何か困り事かい、リュウ?」
 俺が聞き返すと、リュウは妙に照れくさそうにしてい
た。その様子は普段とは少し違うようだが……
「リュウ……言いづらいなら、僕が訊こうか?」
「いや、俺が訊くよ。だから、アンリは……」
「うん、わかったよ」
 リュウは辺りをキョロキョロと見回すと、
「……キーアは、いないよな?」
「キーアに用なのかい? キーアなら……」
「キー坊なら、お嬢とティオすけと一緒に買い物に
行っているぞ」
「だそうだ。キーアが戻ってくるのを待つかい?」
 二人は首を横に振った。
 どうやら、キーアに聞かれたくはないようだが。
 まさか、キーアがイジメられているのか!
「キーアの……キーアの誕生日を教えてくれ!」
「…………へっ?」
 予想とは違う答えに、俺はマヌケな声を上げていた。
「なんか俺……変な事訊いた?」
「あっ、いや、そんなことはないけど……」
「おいおい、ロイド。何を考えていたんだ?」
 ランディは少し呆れた様子だったのが気になるが。
 リュウとアンリの眼は真剣そのものだった。
 その様子を見て、俺もランディも頭をかくしか
なかった。
 ……俺たちもキーアの誕生日知らないんだよな。

 その夜遅く、俺たちは緊急会議を開催した。
「それは完全に盲点でした」
「そうよねー、私たちもキーアちゃんと一緒にいる
ことが当たり前だったから」
エリィもティオも困った顔している。
「キー坊が産まれたのは、500年以上も昔だろ」
「それに、キーアも記憶を取り戻していないからな」
俺たちがキーアの誕生日のことで、うんうんと頭を悩
ましていると、セルゲイ課長が口から紫煙をくゆらせな
がら、思いもよらない言葉を口にした。
「分からないなら、作ればいいだろ」
「なるほど、確かに課長の言うとおりです。流石、伊達
に歳を取っている訳ではないんですね」
「テ、ティオちゃん」
ティオの物言いにエリィがあたふたしていた。
「ったく、相変わらず歯に衣着せない物言いだな。
おじさん泣いちゃうぞ」
「それはともかく、キー坊の誕生日をいつにする?」
「そうだな……俺たちがキーアと出逢った日が妥当だと
思う」
「キーアちゃんと出逢ったのは……《黒の競売会》が
あった日だから……」
「創立記念祭五日目です」
「だがよー、そうなるとまだずっと先だろ」
「そうだな。だったら——」
俺は自分の考えをみんなに伝えた。その考えに、
「いいわよ、ロイド」
「ナイスアイデアです、ロイドさん」
「となると、キー坊に気付かれないように
準備しないとな」
こうして、俺たちはキーアの誕生日を決めた。

 それから数日後——
「お誕生日おめでとう♪」
みんなからお祝いの言葉に、キーアは嬉しそうに
はにかんでいた。
「えへへ、みんな、ありがとう♪」
キーアの満面な笑みに、誕生会に集まった面々も
笑顔が零れていた。
来年も再来年も、みんなでこんな時間を迎えられます
ように。


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