≪前頁 ・ 第7回展示室へ戻る ・ 次頁≫

■星野ソラ

【タイトル】 恋というもの・一巻(1)
【作者】 星野ソラ

「ごめんなさい」
「なぜだー!!」
 今日もリベールの王都グランセルに響き渡る
俺の相棒の叫び声。
 かれこれ、朝から45回目の叫び声だ。
「リックス、僕は何がいけないんだ……」
「すべてかもな」
「それはひどいぞ!おい!!」
 45回目の叫び声を終えた相棒は
 俺と一緒に広場のベンチに座り、嘆いていた。
 相棒の名はアントン、彼女のいない歴
は彼の歳と同じだ。
 昔から彼女作りを夢見て女性に声を
かけ続けているのだが、
 見事に皆、粉砕していった。
 今さっきの叫び声も数秒で惚れた女性に
告白して数秒で振られたという
荒業が原因だった。
「僕って、恋愛運んないかも…」
「かもな…」
「だって!クロスベルに行った時、
 やっと彼女ができると思っていたのに!
 彼氏持ちだったなんて、嘆きたくなるわ!!」
 フランさんのことだな。
 確か、特務支援課の赤毛の人に聞いた話だと、
フランさんが言っていた『大切な人』とは
 彼氏ではなく彼女のお姉さんだったらしいな。
 アントンは誤解しているが、面白いので
そのまま本当のことは言わないつもりだ。
「彼女ほしいな……」
 こいつとも知り合ってから
もう数年経つんだな。
 アントンがいると疲れると
俺の友人が言っていたが、
俺はどうもそう思わないんだよな。
 理由はないが、まあ挙げるとするならば
見てて面白いからかもな。
 そう思っているとアントンが何かを
閃いたようなハッとした表情をした。
「そうか!そういうことか!」
「どうした、アントン?」
「女性へのアピールが足りない
 から振られるのか!」
「…は?」
「そうに違いない!うん!
 そう思うだろう!リックス」
 そんな満面な笑顔で
バカ発言されてもな…。
 なぜだろうか…内面的だったはずの
アントンがこんなにも変わるとは、
 よほどクロスベルでのことが
響いたのだろうか。
「きゃあ!!」
 突然、悲鳴のような声と
共に大きな音が響いた。
 声からして女性か…?
「な、なんだ!?」
「わからん…あっちの方からだな」
「今さっきの声、女性だな……
 よし!ナイトの僕が行くか!」
 とりあえずアントンの言葉を
無視して声のしたほうにいこう。
「おい!無視するな!!」
 俺達は声のしたところに到着した。
 場所はショッピングモールの
横にある休憩場だった。
 そこには少女が倒れていた。
「アント——」
 俺が名前を言う前に隣にいた
アントンの姿が消えていた。
「大丈夫ですか、お嬢さん!」
 …女性となると行動が早いな。
 とりあえず俺もアントンの
元に向かった。
 俺がたどり着いていた時には
アントンが助け起こそうとしていた。
少女の髪は金髪のショートで
 すこし膨らんでいる頬が幼く見え、
たぶん俺達よりすこし年下だろう。
 服装は…あ、この服装って…。
「すみません…」
「いやいや!気にしなくても……ん?」
 どうやらアントンも
気が付いたらしいな。
「君ってもしかして
 …ジェニス王立学園の学生?」

 つづく

■星野ソラ

【タイトル】 恋というもの・一巻(2)
【作者】 星野ソラ

 場所は変わって、
俺達は時計台の広場で、
アイスを食べながらベンチに座っていた。
 もちろん少女もだ。
「すみません…倒れていたところを
 起こしてもらったうえに
 こんなアイスまで」
「そんな礼を言わなくてもいいのに…!」
 大丈夫だお嬢さん、
こいつのおごりは下心から来ているから。
「それにしても学園のお嬢さんに
怪我がなくてよかったね」
 まだ少女から学生だとは
聞いてはいないが、服装を見ればわかる。
 少女の服装はジェニス王立学園で
配布されている女性用の制服。
 しかも確か今日は外出が
許可される日だったはずだ。
 飛行船を使えばここに
いてもおかしくないだろう。
 なぜここまで詳しいというのは
俺は学園の卒業生だからだ。
 アントンも卒業生だが、成績はギリギリで
よく卒業できたものだ。
「階段で足を踏み外しましたけど、
 かすり傷もしてません」
 少女はそういうと隣に
おいてあった杖を見た。
 その杖は足に障がいをもつ
 人が歩く時に使用されているものだ。
そう少女は足が悪く、
 彼女を起こそうとした時もアントンと俺が
一緒に手伝わなければ無理だった。
「それはよかったな」
「君の住んでいるところは?」
「は!?」
 アントン、いきなりなに言い出すんだ!?
「えっと…よくここに住んでいると
 わかりましたね、この服装だと学園から
 遊びに来たと間違われると思ったのですが」
「あぁ、確かに今日は学園の休みで
 ここに遊びに来たと思っていたが、
 君は足が悪い、長期的な徒歩は無理だろ?
 しかもここは学園から遠い、
 だからこの近くに住んでいると思ってね」
「わあ!すごいです!その通りです!」
「す、すごいかな?」
 そういえば昨日、推理小説読んでたな。
まあ、女性を口説くためだろうな。
「でも、なぜそのような事を?」
「フッ…、それは…」
 まさか、卒業した学園の学生を口説こうと
思っているのか?アントン。
「き、君のようなお姫様を!ナイトの
 僕が送り届けたいと思うのです!!」
 アントン…意味わからんうえに
変態発言するとは…。
 こんな発言で落とせる女性
なんているはずが…。
「………」
 て、お嬢さん?何で
頬を赤くしてるの!?
「い、いいかな」
「…ふ」
「ふ?」
「ふふふ…おかしな人ですね」
ハア…やっぱりその反応だよな。
「なら、ナイトさん、私を
 お城まで届けてくれませんか?」
…え?
「え?僕が送っていいの?」
「はい!」
「うおっしゃああああ!!」
「うそだろ!?」
 思わず大声が上がってしまった!
 まさか今さっきの発言で
落とせるものなのか!?
「ところで…まだお二人のお名前を
 聞いていませんでしたね」
 ん?…そういえばそうだったな…
気が動転して忘れてた。
「俺の名はリックスだ」
「ぼ、僕はアントン!」
「私はジェニス王立学園2年…
 アリッサと申します」
 ふと、アントンとアリッサと
名乗った少女の目が重なると、
二人とも微笑んだ…。
 こんな事がありえるのか…?

つづく


≪前頁 ・ 第7回展示室へ戻る ・ 次頁≫