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■シン・アマミ

【タイトル】 霧の森の妖精
【作者】 シン・アマミ

とある国のとある都市の近くに、
霧で覆われた森があった。

その森に一人、少年が迷い込んでいた。
子供達で森に住む人攫いの妖精の噂を確かめに来たのだ
が、入口付近で魔獣から逃げた時に一人だけはぐれてし
まったのだ。
「どうしよう。」
入口がどちらかも判らなくなってしまって、
途方にくれていた。
すると後で音がした。
振り向くとそこには魔獣の姿があった。
少年はその場から逃げだしたが躓いて転んでしまった。
少年はあまりの恐怖に気絶した。
そこに魔獣の腕が振り下ろされた瞬間、
少年の周囲を濃い霧が包み魔獣は少年の姿を見失った。

「う〜ん」
目を覚まし、辺りを見渡した。
「魔獣がいない?」
魔獣の姿はなかった。
助かったと一息つき、再び辺りを見渡した。
そこは、広場のようになっていて、
先ほどまでいた森の中に比べて霧が薄かった。
「お目覚めかい?」
後から声をかけられた。
慌てて後を振り向くと、
そこには同じくらいの年の少年が立っていた。
「誰?」
「僕はフェイ。君は?」
「僕はマルコ。」
二人は簡単に自己紹介をした。
「森の中は危ない、しばらくここに居るといいよ。」
マルコはフェイの提案に頷いた。

それから二人は、あっという間に仲良くなった。
時間は過ぎ去り、気づくと辺りは真っ暗だった。
「帰らないと。」
「今日はもう遅いし、泊って行きなよ。」
フェイがそう言うと、
確かにと思い泊っていく事にした。
二人は疲れて寝てしまうまで騒ぎあった。

次の日、森に捜索の為に遊撃士達が集まっていた。
フェイはその事にいち早く気がついた。
「お迎えが来たみたいだよ。」
そう言うとマルコは大喜びした。
「なら一緒に行こうよ。」
マルコはフェイの手を取ったが、
フェイは浮かない顔をしていた。
「ごめん、僕は行けない。」
「どうして?」
「僕は君達とは違うから・・」
フェイは何かを取り出した。
それは森の木の実で作った腕輪だった。
「これを君にあげる。」
そう言い、マルコに腕輪を持たせた。
「ありがとう、また会いにくるよ。」
フェイにそう告げると、フェイは首を横に振った。
「ここは本来、人が入れる所ではないんだ。」
「そんな、じゃあ僕ここに残るよ!」
マルコは泣きじゃくりフェイに詰め寄った。
「ダメだよ、君には帰る場所がある。」
フェイは目に涙を浮かべながらマルコを抱きしめた。
そして耳元で囁く様にこう言った。
「ありがとう、さよならだ、マルコ。」
マルコの意識はまどろみに落ちて行った。

程なくしてマルコは森の中で気絶している所を遊撃士に
保護された。目を覚ましたマルコは、
遊撃士に森を探索してもらったが、
あの場所は見つからなかった。
だがマルコのポケットの中には
あの時もらった腕輪が入っていた。
そして、月日が流れ、マルコも大人になった。
あれから会う事は出来なかったが、
あの腕輪は残っていた。
今でも机の奥深くにしまわれた腕輪を見て思い出す。
——幼き日にほんの少しだけ共に過ごした友人の事を。


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