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■安藤一次冷却水

【タイトル】 リべール通信 日曜版 文化欄 〜神父Kの献身〜
【作者】 安藤一次冷却水(リべール通信社文化班)

 聖職者は、宗教者であると同時にカウンセラーでも
ある。
 礼拝後の告解は、私たちが罪を吐露し生まれ変わる、
宗教的な「死と再生の通過儀礼《イニシエーション》」。
 それは人々の精神の安定を守るばかりでなく、聖職者
自身にも教戒を与えるものだ。
 本欄では、ある七耀神父の赦しの秘跡を辿る。
         (リべール通信社文化班総力取材)

「人には良心があって、罪に対する良心の疼きが、
生まれ変わりの機会を求める」
「それが告解ですねん。
せやから人は、自ら整理しに来て赦しを求めてる。
赦しとは、最後ほんのちょっと
背中を押したげることなんですわ」

 七耀教会のK神父は、気さくに笑って見せた。
私たち取材班とK神父は、大聖堂の告解室に入った。

「最初の方、どうぞ」

 入って来たのは、可憐な少女だった。
彼女の話を聞こう。

「父さんの大切なお皿を割っちゃって……」
「めっちゃ怒られたんや?」
「その逆。物は壊れるものだから、気にするなって。
お母さんの形見だったのに、謝り損ねちゃった」
「一番の形見は君やろ?
お父さん、君が怪我せぇへんかったことのほうが
重要やったんやないか?」
「……ぁ……
あんな不良中年でも、父親なのよね、ふふ」

「次どうぞ」

 少女と入れ替わりに入ってきたのは、
精悍な若者だった。

「単刀直入に言うぜ。
朝練中に誤って仲間の武器を壊した」
「そらスグに謝ったほうがええなぁ」
「俺もそのつもりだったんだよ!
なのにチビスケが、すぐ直します! っつって」
「直らへんかったの?」
「俺はクロスボウのことは解らねぇけど、
なんか違う武器になったって言うか」
「えクロスボウ言うた今? それ何になったん?」
「ガンランス……だな」
「別物すぎるわ!
ミラとゼムリアストーンつけて謝っとき!」
「ちっ……セピス稼ぎに行くか……」

「ま……まだや、まだ終われへん……。
……次の方どうぞ!」

「僕は、仲間を殺してしまったかも知れない」
「何や何や、物騒な話やな? 最初から話してみ」
「今朝、僕がキッチンにいた時、仲間がお茶をくれと
言ったんです。
手近なところにあった茶葉をポットに入れて渡して、
彼はそれをお茶にして飲んで出掛けました」
「よくある光景やね。俺も今朝そんなん覚えあるわ」
「片付けていて気付いたんです。
茶葉だと思って渡しましたが、あれは
干乾びたケモシでした」
「ケモシて、あのモップみたいなモンスター?」
「確か、ケモシには猛毒が」
「なん、やと……?」
K神父の顔面は蒼白から土気色に変わり、
神父はその場に卒倒した。
「ヨ、ヨシュア君……君にできる懺悔は、
その人を病院に連れてったることやないかなぁ……」

 告解の少年によって、K神父は病院に運ばれた。
時には自身が代役を演じてでも、告解者の罪の昇華に
身を尽くすのだ。私はK神父の献身に熱く胸を打たれた。

 尚、ケモシに毒はなく、K神父は単なる食当たりで、
すぐに病院から生還した旨を書き添えて本欄を結びたい。


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