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■maresuke

【タイトル】 不動
【作者】 maresuke

 街外れにある古びた倉庫街。
利用されなくなって久しく、普段、人影も無いはずの
この場所が今夜は賑わっていた。
 1人の男が、30人以上からなる集団に囲まれていた。
囲んでいる側は、いずれも武装した男達。
皆、一様に覆面で顔を覆い隠しているが、眼には殺意
が漲っていた。
 一方、囲まれている男は、武術家風のいでたち、
まるで熊のように巨大な体躯。歳は30代前半というと
ころか。
 ……ジン・ヴァセックであった。
 カルバード共和国のA級遊撃士にして、武術の理を
追い求める者。拳法流派「泰斗流」を継ぐ者でもある。
「お前さんたち『不動のジン』って名を聞いた事はあ
るかい」
 ジンが口を開いた。
 意外な言葉に、覆面の男達は顔を見合わせた。
 リーダー格らしい男が一歩前に出て答える。
「たいした度胸だと言ってやりたいが……。生憎、聞
いたことも無いな」
「いや、なに。知っていたらどうだ、という訳じゃな
いんだがね」
 言い終わるが早いか、ジンは右足を半歩開き、構え
をとる。
「はっは。ならば、解り易く教えてやるとしようか」
 ジンを囲む男達は一斉に武器を構えた。
「お、おい!動くなっ。この状況が見えないのか!貴
様なぞ、一瞬でハチの巣に……」
 リーダー格の男が吼えた。
 聞く耳持たぬジンは、気を練り始める。
「こおぉぉぉ……!!」
 大地が急激に振動を始めた。振動は大きくなり、
男達の中には地面に手をつく者もいる。
 ジンが気を込め続けると地面が割け、割れ目から大
地の気が噴出した。
「眼にも見よ、泰斗流奥義……」
 大地の気を全身に溜め込んだジンは体当たりの姿勢
をとる。
「泰山玄武靠!!」

 同刻、25セルジュ程離れた区画で、地上より立ち
昇る光の柱を見つめている黒髪の美女があった。
「ジン……。少々やりすぎね」

「ふぅぅぅ……」
朝靄の中、倒れ伏す男達の真ん中でジンは呼吸を整
えていた。
「ジン、なにか言うことは?」
いつ来たのか、背後からの女の声にジンは振り返ら
ずに答える。
「すまんな、キリカ。ターゲットには逃げられたよう
だ」
先程の黒髪の美女は、キリカ・ロウランであった。
元、遊撃士協会ツァイス支部の受付。現在は共和国
の情報機関『ロックスミス機関』の室長であり、ジン
とは旧知の間柄である。
キリカは静かに答える。
「問題ないわ。こちらで捕えたから」
意外な返事に、ジンはキリカの方に振り返る。
「そりゃまた、どういう……」
振り返ったジンの眼に、縛り上げられた壮年の男が
見えた。その左右には黒服の男が2名……。
「こちらでも網を張っておいたのよ。逃げてきそうな
方向にね」
ジンは全てを感得した。
依頼されたのは、指名手配中のテロリストの逮捕
だった、はずだが……。
「そうか。俺は囮だったという訳だな。はあ……最初
に言ってくれても良いだろうに」
「ふふ。テロ集団の殲滅、御苦労様」
昇り始めた朝陽が、それぞれ異なる二人の表情を
照らし出していた。


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