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■みゅうにゃ

【タイトル】 ココロのキセキ
【作者】 キース・レーカ

 夕暮れが嫌いだ。夜が怖かった。
 僕は、遊園地の中庭から星の海を見上げていた。
「みっしぃ」
 名前を呼ばれて僕は声の方に振り向いた。
園長だ。嬉しくて園長に駆け寄り抱きつく。
 だけど、すぐに園長から離れる。園長には帰る家が別
に在るのだ。僕の寂しさを紛らわす為に長居させる訳に
は、いかなかった。

「みっしぃ、私は、そろそろ帰るから留守番を頼むよ」 
「みししっ!」本当は帰って欲しくは無かったが、僕は
胸を張り叩く。

 夜が怖かった。朝が待ち遠しかった。
何故こんな気持ちになるのだろう?
否、僕を作った「人」は何故に機械の身体に心なんて
モノを入れたのだろう?僕には解らないがコレはきっと
凄い技術なのだろう?
一度メンテナンスの時に何故、僕がこんな気持ちに成
るか尋ねた事を思い出した。ただ答えは必要なモノだと
告げられただけだった。
僕は、正直こんな気持ちをする位なら心なんて要らな
いと思っている。

 夜空を見上げる。瞬いては消える星を見つめる。僕は
ただの遊園地のマスコットだ。遊園地の入口に立って入
場者に風船を配る、それだけの機能さえあればいいと思
うのに。
僕には人を喜ばすスキルが無いのだ。可愛いダンスも
楽しい話術も何ひとつ無いのだ。

そもそも、遊園地で風船を配るだけなら機械人形でなく
ても良いハズだろう・・・。
何故に人間を雇わずに僕という人形を使うのだろう?
そんな事を考えながら今夜も機械羊の夢を見る。

次の日の朝

「おはよう、みっしぃ」
園長に手招きされ、僕は急いで駆け寄る。
「今日は、お前に会わせたい人がいるんだ」
「みしっ?」
ふと、園長の横を見ると僕と同じ容姿をした機械人形
が立っていた。
僕に似てはいるが細かい部分は所々違っていた。
体の色はライトピンクに長いまつ毛そして左の耳元に
はリボンをしていた。
「みしし?」僕は小首を傾けた。
「彼女の名前は(みゅっしぃ)って、言ってなお前と同
じ工房で作って貰ったんだ。言うなれば、お前の嫁さん
だな」「みしっ!!!」
僕は、驚いた。僕と同じ機械人形が存在した以上に何
よりお嫁さんという事に。

「みゅししっ!」そう言いながら彼女が近づいてくる。
少し警戒していたが、彼女の笑顔にそんな気持ちは溶
けていた。
だけど、本音は嬉しくて今にも踊りたい気持ちで一杯
だった。
だって、今夜から沈む夕日も暗い夜も永遠に独りぼっ
ちではないのだから。
僕は今気付いた。何故に僕に心が在るのか。そうだ、
この気持ちを知らなければ人を楽しませる事が出来ない
からだ!こんな寂しい思いを他の人にさせたくない!そ
うだ!その為に頑張るためなんだ!

「さあ、二人とも今日も笑顔でお客様をお迎えするぞ」
園長の激に、僕らは。
「みしっ!」「みゅしっ!」と、元気よく答える。

 さあ今日から、また頑張ろう。
お客様に、そして彼女にも寂しい思いをさせない為に

 僕は・・・否、僕らは独りぼっちじゃないのだから。

 彼女の手を引き、僕らは歩き出した。


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