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■秋秋

【タイトル】 もっとも素敵な一枚
【作者】 秋秋

 私、写真を撮るのが趣味なんです。素敵な
風景を見るとパシャリと一枚撮らずにはいら
れません。
 写真に没頭するあまり、現在に至るまで恋
人はまったくゼロ。嗚呼、恋話に花咲く友人
が羨ましい!…とは常々思っていたんですけ
どね〜。だけど写真だけはやめられません。

 ある休日の事でした。雑誌に掲載されてい
た近隣の絶景スポットの写真を見た私は、も
ういても立ってもいられず、遊撃士さんに依
頼して、現地へと連れて行ってもらう事にし
ました。だって若い娘さんが魔獣の徘徊する
街道を一人で歩くわけにもいきませんし。家
計的には大打撃なんですけどね。はぅ〜…。

「なるほど。オーバルカメラで撮影か。OK、
身の安全は俺に任せてくれ」
遊撃士さんは私と同年代の優しげなお兄さ
んで、ぼんやり者の私と違ってしっかりして
いる感じ。ちょっとカッコイイ人です。銃を
構える姿は様になってます。
普通の女の子なら彼に熱を上げるんでしょ
うけど…、私といえば絶景ポイントを回れる
喜びでそれどころではないのです。

 そして各地を巡る私達。初めて訪れる現地
の風景はまさに感涙モノ! やはり実物はど
うしようもない程に鮮やかで美しく、そして
眩い。何枚撮っても飽きません!
「俺も仕事で何度か通ってはいたけど、風景
なんて目にしてもいなかったよ。こんなにも
美しい場所だったんだね」
彼の言葉が素直に嬉しかった。自分が感じ
たその感動が他の誰かに知って貰える事が。
そんな浮かれ調子なのがいけなかったんで
す。すっかり舞い上がってしまい、彼の注意
を忘れたばかりに、知らないうちに魔獣の巣
へと近寄ってしまい襲われるはめに…。

 遊撃士さんが襲ってきた魔獣を追い払って
くれたんですけど、その戦闘で長年使い込ん
だカメラが壊れてしまいました。
誕生日に父から貰った大事なもの。その愛
用品を失った悲しみで、ポロポロと涙が溢れ
てきます。
「ごめん! 俺がしっかり見てなかったから!」
でも、遊撃士さんは必死に謝ってくれまし
た。泥だらけになって一生懸命に戦ってくれ
たのに、悪いのは自分だと頭を下げてくれま
す。一番反省するのは私のはずなのに…。

 私はなんとなく、両手の人差し指と親指と
でカメラから覗くフレームを形作って、彼を
その枠内に収め…パシャリ、と呟きます。

「ふふ…、今日撮った中で一番素敵な写真です」
こんなにも真剣になってくれる遊撃士さん
の姿。こういうのをカッコイイって言うんで
すよね。さすがの私も恋しちゃいそうですよ?


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