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■whitestar

【タイトル】 日向の窓に憧れて
【作者】 whitestar

あたしがかつて過ごした場所。
 世間はそこを『スラム街』と呼ぶ。
 そこには光なんてものは存在しない。
 ただ暗闇だけが存在する。
 そこは世間から見捨てられた世界。
 ただ絶望だけが彷徨っている。

 スラム街での生活は生き地獄だった。
いつも生と死の間に立っていた。
生きるためならなんでもする。
毎日、荒んだ暮らしをしていた。
すべては自分のため。
すべてはこの世界とあたしの命を繋ぐため。
でも、そんな毎日が辛くて嫌だった。

 スラム街の東側には川が流れていた。
その川の向こう岸には街があった。
その街にはいつも光が当たっていた。
あたしはその光を嫌い、そして恨んでいた。
まるで光は、あたしたちと向こう岸の
人間たちを区別しているようだったから。

 街の人間はいつも笑っていた。
毎日、いつも笑顔が絶えることはなかった。
あたしは毎日その笑顔を見ていたからよく分かる。 
羨ましかったのだ。
あの笑顔が、あの幸せそうな顔が。
だけどあたしには到底縁のない話。
あたしは所詮、スラム街の人間だから。

 街の中に、一つだけ気になる家があった。
その家には、特に光が差し込む窓があった。
あたしはその窓を毎日眺めていた。
暇があれば、その窓を眺めていた。
そしていつしか、あたしは日向の窓に憧れていた。
するといつしか、あれほど恨んでいた光が、
あたしの心に幸せをもたらす存在に思えた。
日向の窓が、あたしに生きる希望をくれる
気がした。
その数日後だった。
あたしが旅芸人集団ハーヴェイ一座に拾われたのは。

 今、あたしは遊撃士としての道を歩んでいる。
そして今になって分かったことがある。
あの光は『親友』だったと言うことを。
あの時望んでいた光はいつも私の周りにある。
いつも笑っていて、いつも励ましてくれて、
共に支え合っている。
私に笑顔が絶える日はない。

 だけど。
今、スラム街で生きる人々から見れば、
あたしは向こう岸の人間かもしれない。
だから私は今でも日向の窓に憧れている。
あの時とは少し意味が違うけど。
今度は光をあのスラム街の人々に。
そして世界が一つとなるように。


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