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■空とぶ猫目くじら

【タイトル】 秋霜烈日
【作者】 空とぶ猫目くじら

秋霜烈日
空とぶ猫目くじら

ある時、大佐まで昇り上がった軍人が居た。
大変頭が切れ頼れる男で責任感強く部下の信頼も篤い。
欠点があるとすれば、それは他人に頼る事が出来なかっ
た事。
彼を支え様とする者も居たが、全て自分が遣らなければ
と思い込んでいた事だろう。

其処を敵に付け込まれた。

−現国王を廃し、傀儡の王を即位させねばならぬ−

そう信じ込ませる暗示を受け反乱を起こさせた。
彼を諌める部下も居たが何時の間にかその部下も賛同し
彼を止める者は居なく為り…彼は第一級国事犯と為り死
刑が決まった。
彼の助命嘆願書が集まる中、彼は死刑を受け入れた…部
下の助命と引き換えに。
本来の彼は潔い武人、部下は自分の命に従っただけ、全
ての罪は自分に有る…と。

静かに刑の執行を待つ日々に落ち延びた部下が反旗を翻
し捕まった報を受けた。
彼を解放させる為に反旗を翻した部下達の頭は唯一彼を
諌めた彼の片腕と呼べる者だった。
彼は懇願した、反旗を翻した部下達の助命を、全て自分
の罪で有ると。
それでも反旗を率いた彼の片腕の死罪は免れないと知り
つつも懇願せずにはいられなかった。
暴走した彼を唯一止めてくれた片腕の部下にして、愛し
い妻であったから。

そんな折り拘留中の彼女に面会出来る機会が訪れた。
詰問に一切応えず沈黙する彼女を説得せよと命が下る。
色々と謎があった、一度は敗北しながら何時逃げ出した
のか?武器は資金は何時調達したのか?
彼女の上司で夫の彼ならば聞き出せると軍の上層部は睨
んだのだ。
しかし上層部の思惑も空振りに終る。
気付いたら安全な場所に居て、武器も資金もあったと。
後はただ彼を解放する為に奔走したと答えるのみで謎が
深まるだけだった。

彼は問い掛ける思い出した、かつて彼女に諌められた言
葉を繰り返す。
反逆など他国に攻め入る隙を作るだけだと、政治にして
も時間を掛ければ掌握出来るものを急ぐ必要など何処に
あるのかと。
返す彼女の言葉は支離滅裂、同意したかと思えば否定す
る。
混乱する中で彼女は気を失ってしまった。
彼女も彼と同じく暗示を受けて敵に操られていた事を軍
の上層部に印象付けたっかた。
少しでも彼女の罪が軽く為ればと願い意識の無い彼女を
抱き締めた。

流石に意識が無いままの別離では憐れとの恩情。
拘置場に戻ればもう二度と逢う事は許されない二人に微
かな時間が与えられた。

二人きりの時間、腕の中で眠る愛しい妻に口付ける。
瞬く瞼が開き、差し伸ばされる指先が頬を滑る。
言葉は涙にかわり、抱き締め合う。
もう触れる事が叶わない温もりを感じ、求め合い想いを
重ねて情を交わす。
重ねた肌の温もりに愛しさが増していった。

彼には思惑があった、微かな賭けでしかなかったが…。

数ヵ月後彼は賭けに勝った、彼女に恩赦が下り釈放され
たのだ。
更に数ヵ月、彼女との面会が許された。
彼女は胸に小さな赤ん坊を抱いている、彼の思惑通りに。
我が子との邂逅に頬が緩む彼に思い残す事は無かった。

次の日の午後、彼の刑が執行された。


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