"エディス 南6クリメライ"
まだ暗いうちに海辺の漁村を発った私たちは、日もとうに登った頃、ようやく最後の里程標を行き過ぎた。
やがて、なだらかに続く長い斜面を上りきると、丘陵に白く光るエディスの家並みと、はるか西へと広がるアトラス洋とが忽然と現れた。鉄錆色の頂から目の眩むように青い海へと、切れ目なく続く白亜の町は、まるで敷物の上に覆された真珠のように美しく輝いていた。

狭い路地が複雑に這い回る市街で、私は、かつて訪れたプロマロックに負けぬほどの多様な人々と、信じられないほど多くの野良猫とを目にすることになった。この生き物に対する寛容な態度は、エディスに住む人々の特筆すべき特徴だろう。魚を盗られようが高価なイベル豚のもも肉をかじられようが、エディスの人々は気にも留めないし、もちろん決して昼寝をやめたりしないのだから。
市場の様子もまた私の興味をひいた。エディスでは裕福な商人たちは例外なくオリエッタ風の格好をしている。この町にはロムン文化の真似をする者はいない。気候が違うせいもあるだろうが、この地方の商業をオリエッタ人が牛耳っているのは明らかだった。たまにやって来る兵士の姿がなかったら、誰もここがロムン帝国と関係の深い都市だとは思わないだろう。バレシアで聞いた通り、ここは"アフロカ"なのだ。北アフロカの都市国家もこのように賑やかなのだろうかと、私たちはしばし空想を楽しんだ。
日没後、空腹を抱えた私たちは、港に面した通りにある2階建ての酒場(バル)に入った。貝殻で飾られた木戸を押し開くと、温かな魚油の灯りが溢れ出し、私たちを温かく照らした。ちょうど船乗りの夕食時と重なったらしく、店内はひどく込み合っていた。
自慢の刺青を見せ合うように肩をむき出しにした船員たちは、だいぶ前から居座っているようで、テーブルの上にはすでに幾つか皿の塔ができあがっていた。カード遊びに興じる彼らの言葉は、オリエッタ地方の方言なのだろうが、残念ながら私には聞き取れないものだった。新たなカードが裏返されるたび、決まって彼らの内の誰かが酒瓶を蹴り上げ、そして意味不明の罵り合いがしばらく続くのだった。
料理を待つ間も、大皿に山と盛られた魚介の揚げ物を前にした後も、私たちはこれからの冒険について夢中で話し合った。店に入る前に訪れたエディスの港は、あの市場にも劣らぬほど活気に満ちていた。桟橋には大小様々な交易船が鈴なりとなって停泊し、荷さばきのための倉庫は積荷で溢れ返っている。帝国の外洋艦隊が寄港地としているだけあって、船大工たちの腕も一流だった。私たちが旅した頃のエディスは、間違いなくエウロペでも有数の港と言えた。
きっとアフロカ行きの船を見つけることができるだろう……。そう私たちが期待に胸を膨らませているときだった。見知らぬ2つの人影が、私たちのテーブルの横でぴたりと立ち止まった。
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