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■かずぃ

【タイトル】 苦肉の再会(1)
【作者】 ティエリ

 今日、クロスベル市から妙なものが配達され、僕の所
属するツァイス中央工房実験室に届けられた。金属製の
箱には厳重に封が施されており、その上からは宅配屋
(カプア急便というらしい…カプア?)の送り状と
「危険物注意」「生もの」シールがべったりと
貼り付けられている。
「……で、これは一体何なんだい、ティエリ君?」
「僕にきかないでくださいよ、レイ先輩。これ、
先輩宛の荷物じゃないですか」
「ふむ…何だろうね?」
 実験室を共有しているレイ先輩は細い頤に指をあて、
小首を傾げてみせる。悔しいがなかなか様になっている
気がする。ただし、小脇に抱えているのが
ペインティング前の美少女導力人形でなければの話。
あの導力人形がイケメンと影で噂されている先輩の
全てを台無しにしている。
 僕は差出人の欄を読み上げながら先輩に尋ねた。
「差出人は…クロスベル警察特務支援課…。先輩、
心当たりは?」
「うーん…」
「連絡とかなかったんですか?」
「むぅ、あったような無かったような…」
 先輩は箱を睨みつけながら唸っている。導力の頭部を
撫で回しながら。僕が言うのもなんだが、本当に色々
台無しだ…。
 僕はため息をついた。
「…悩むくらいなら開けてみたらどうなんですか?」
「ふむ、それは名案だね。早速開けてみてくれたまえ」
「はいはい…」
 先輩の手は止まらない。まあ、いつものことだ。
僕は添付されていた鍵を使って封を開け
…られなかったので、半ば強引にこじ開けてみた。
本来ならこういった頭脳労働以外の労働は専門外も
いいところなんだが、この先輩についていると嫌でも
鍛えられる。そして、残念ながら僕とこの先輩との
付き合いは長い。
 金属製の箱の中には…木箱。
「また箱だね」
「箱、ですね」
 僕は先輩には目もくれず、バールのようなもので
木箱を慎重且つ大胆に解体。箱が断末魔の悲鳴を
上げる。
「…?」
「…何だいこれは?」
「だから僕に聞かないでください…って、あれ…?」
 箱の中には更に梱包材に包まれた箱が入っていた。
半透明の強化プラスティックの箱のようだ。小型の
冷却設備が付けられていたらしく、箱の表面に薄っすら
露がつき始めた。
 そして…中に何かが、いる。
「せ、先輩?」
「よし、開けたまえ、ティエリ君」
「ええ!?」
 僕は思わず先輩を振り返った。
 先輩は視線を箱に固定しながら言った。もちろん手は
ロボットの頭の上だ。
「君も研究者の端くれなら気にならないはずは
無いだろう?開けるべきだね」
「先輩が開ければいいじゃないですか!!僕は中身が
分からないものを開けるのは嫌です。特に先輩宛の
荷物は嫌です」
「むぅ…仕方ないね」
 先輩は慎重に美少女導力人形を椅子に座らせてから、
箱に向き直った。
「未だに中身が思い出せないのだけど、とにかく
開けてみよう」

<続く>

■かずぃ

【タイトル】 苦肉の再会(2)
【作者】 ティエリ

 僕はじりじりと先輩に気付かれないように箱から
離れてその様子を伺う。
 先輩はじっくり観察した上で、おもむろに箱を
持ち上げた。箱を形成する6面のうち、底辺を除く
5面が浮き上がる。
「…え?」
「…む?」
 上部を完全に取り去られた箱の底には、赤い物体が
うずくまっていた。真っ赤な生き物…。
「せ、先輩、これは…!!」
 僕は慌てて駆け寄った。が、先輩の表情は
怪訝なままだ。
「…何だいこれは?」
「ええ!?せ、先輩、これはアレですって!!」
 僕は箱の底の赤を指差す。ちょうどその時、
赤い生き物がのそりと起き上がり…そして片手を上げ、
笑った。…様に見えた。
「以前先輩の作った…!!」
「……」
 先輩と赤い生き物が見つめあっている。
互いに、視線で会話をしているかのように。
 やがて先輩は何事も無かったように僕の方に向いた。
「…で、ティエリ君。こいつは一体何なんだい?
僕にはさっぱり分からないんだけど」
「…はい!?」
 目を丸くする僕に、先輩は首を振った。
「僕はこんな妙なものを作った覚えは無いな」
「ええ!?…あ、た、確かに…でも…!!」
「ティエリ君、その箱、しまっておいてくれたまえ。
その生き物にはもう少し眠っていてもらおう。
僕は送り主に導力通信で問い合わせてみる」
「い、いや、その…!!」
 先輩はいつの間にか美少女導力人形を抱えて
部屋の片隅にある通信機に向き合っていた。
 僕は慌てて止めようとしたが、ふと妙な気配が
膨れ上がるのを感じた。
 その僕の頬を何かがかすめた。
「……え?」
 生暖かい液体が頬を伝う感触。手で拭うと赤と緑の
ぬるりとした液体がまとわりついた。
 僕はゆっくりと首を回す。
 例の赤い生き物が小刻みに揺れていた。
 呆けた顔と短い腕の所為で分かりづらいが、
どうやらファイティングポーズをとっているらしい。
 つまり、この赤い生き物が僕に攻撃してきたと
言うことで……つまりこいつはやはり魔獣——
「ティエリ君伏せなさい。危ないぞぉおおおおっ!!」
「…へ?…えええええっ!?」
 僕は先輩を見て慌てて床に伏せた。

<続く>


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