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■Desire

【タイトル】 アルカンシェルは今日も輝く
【作者】 Desire

「こら、シュリ。どうして手を離しちゃうのよ?」
「こんなの、無理に決まってるだろ!
 アンタ達は慣れてるんだろうけど、
 俺には初めてなんだ! 出来るかよ!!」
「あっ。ちょっと、シュリ!」

 ——ここは、彼の有名なアルカンシェルの劇場内。
イリア達は今回、新たに入団した少女シュリに、
迷える子羊役の人間が太陽の姫と月の姫に導かれ、
高いからくり装置に登るという
ワンシーンの練習をしていた。

「はぁ。シュリならいけると思ったのになぁ」
「イリアさん……」

 表情を曇らせたイリアを、
リーシャが心配そうに見つめる。
やがてリーシャは決心したかのように拳を握ると、
シュリの逃げた方向へと走っていった。

「私、ちょっとシュリちゃんを連れ戻してきます!」
「あ、ちょっと! もー、リーシャまで……」

リーシャは衣装着のまま劇場内を走り抜け、
劇場内の一階奥にある更衣室へと駆け込んだ。
更衣室には案の定、
肩を落としてベンチに座るシュリの姿が。

「やっぱりここにいた」
「リーシャ、さん?」

 リーシャがシュリの隣に腰を下ろす。
少しの間を空け、リーシャはシュリに問い掛けた。

「ねぇ、シュリちゃん。
シュリちゃんはイリアさんをどう思う?」

「え? どう、って……」

 シュリは少し悩んでから、口を開いた。

「……凄い人だと思う。
あんな大勢の客の前でもミス一つしないし、
寧ろ練習の時よりも芸にキレが出てる。
あんなの、俺じゃ絶対に出来ない……」
「出来るよ」
「え」

否定を肯定され、シュリはきょとんとした。

「シュリちゃんの言う通り、イリアさんは凄い。
……うぅん、凄いなんて言葉じゃ表せないくらい。
でもね、貴女はそんなイリアさんに選ばれたのよ。
あのイリアさんが、貴女なら出来ると信じて」
「それ、は──」
「だから、ね? もう少しだけ、
もう少しだけ頑張ってみようよ」
「……俺なんかに出来るかな。
貧乏で泥棒してた、俺なんかに……」
「もちろん!」

リーシャは胸を叩き、
シュリに向かって微笑みかけた。

「それは私が保証する。
私だって、イリアさんのお蔭で
ここまでこれたんだもの。だから大丈夫。
私を……イリアさんを信じて。ね?」

 シュリは一度俯くと、少しの間黙り込んだ。
もし──もしも本当に、
自分が彼女に必要とされているのなら?

(俺は、その期待に応えたい——)

 曇っていたシュリの瞳に、輝きが宿る。

「……分かった。俺、頑張るよ!」

 シュリの瞳は、澄んでいた。
今までで一番美しく、
そして、夢と希望に満ち溢れた瞳に。


 こうして今日も、アルカンシェルは輝くのである。


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