■かずぃ

【タイトル】 逃避行の果てに(3)
【作者】 J・S

 黄色い魔獣が案内しようとしている場所がクロスベル
だと判明したのは、出会ってから4日位してからだ。
 最初は目を疑った。
 街道ではなく、山の中の獣道を延々と移動していた
ので、突然目の前に都市が現れて驚いた。
 しかもそれはデータでしか見たことはないが、
最新の導力情報網が整備されていることで有名なあの
クロスべル市……自分の目的地でもあったからだ。
 すっかり仲良くなった魔獣に目をやると、
ややはにかんだようにそっぽを向いた。
 そういえば、道中この魔獣に対して情報都市
クロスベルについて話していたことに思い至った。
どうやらこの魔獣は相当頭の良いヤツであったらしい。
 久々の人類の作った建造物に感動し、思わず魔獣に
抱きついた。
 魔獣は驚いて一瞬逃げようともがいたが、やがて
労うかのようにピタピタと触角(?)で背中を叩いて
くれた。

 夜を待ち、人気の無い住宅街に降り立つ。
久々の人間の気配に胸が躍るのがわかる。
「ここが…クロスベル…」
周囲を見回していると、腕をピタピタと叩かれた。
黄色い魔獣を見ると、何やらソワソワしている。
「…あ、そうか。お前人間じゃないから、見つかったら
ヤバイもんな」
すっかり種族を越えた友人と認識し始めていたので、
相手が人間を襲う魔獣であることを失念していた。
黄色い魔獣は触角(?)で腕を引っ張った。
暗がり…ではなく、街のどこかへ誘うように。
道案内はまだ終っていないらしかった。

「な、何だよ、ここは…?」
狭い配管のような場所を這い進むと広い空間に出た。
流れ落ちる大量の水の音。
明るい導力灯の光。
クロスベル市地下、ジオフロント。
クロスベル市内のライフラインを詰め込んだ空間を
そう呼ぶということにようやく思い至る。
そして、こここそが最初に自分の逃避先として選んだ
場所だということも思い出した。
ここならば保守用の導力端末も存在する。端末さえ
あればあとはいかようにでもできる。…そう、一縷の
望みをかけて飛び出したのが随分と前のことのように
思える。
隣に佇む、埃まみれの黄色い魔獣の頭をペチペチと
叩いてやる。
「あ、ありがとう。お前のおかげでここまで来ることが
出来たよ」
照れくさいが礼を言う。
黄色い魔獣は、気にするなとでも言いたげな感じで
ゼリー状の身体をプルプルさせていた。
徐々に甦る記憶の中の地図を頼りに、端末室を
探してみようか。
そう思って足を踏み出した時だった。

■かずぃ

【タイトル】 逃避行の果てに(4)
【作者】 J・S

 巨大な質量が落下し、保守点検用に組まれている床を
震わせた。
 あまりの衝撃に、黄色い魔獣の身体がプヨンプヨンと
上下に揺れ動く。
 慣性で鞭のようにしなる黄色い魔獣の触角(?)を
避けながら、落下してきたものに目を凝らす。
「んな…!?」
 巨大な魔獣がそこには鎮座していた。
 色や大きさは違うが、黄色い魔獣と同じ姿をした
水色の魔獣。
 ブヨンブヨンとゼリー状の身体が衝撃に揺れている。
 不意に、その巨大な魔獣の触角(?)がしなり、
襲いかかってきた。
「ぐわっ……!?」
 凄まじい衝撃と共に身体が吹き飛ばされる。
 一瞬とんだ意識は着地の痛みで強引に引き戻され、
全身の悲鳴をあますことなく聞く。
 何なんだ一体。
 何なんだよ、あのデカブツ?
 絶対反則だって。
 何故こんな目に…?
 やはりこれは罠だったのか…。
 絶望に打ちのめされそうになりながら、黄色い魔獣を
目で探すと、巨大魔獣の触角(?)に吹き飛ばされて
床にべチャリと広がる様子が見えた。
「……え?」
 仲間じゃない、のか?

 巨大な魔獣は縄張りを侵された怒りからなのか、
触角(?)で床や壁をむやみやたらと叩いている。
どうやら我を失っているらしい。
いや、魔獣だから元々がそういう性質なのかも
しれないが。
時折飛んでくる触角(?)を何とかかわしながら、
黄色い魔獣の方へと這って近づく。
「おい…大丈夫かよ…?」
小声で話しかけると、ピクリと反応があった。
どうやら息はあるらしい。
と思う間に、潰れた黄色い魔獣の身体が盛り上がり
始め、ついには元の形に戻ってしまった。
しかも、飛び散った肉片もいつの間にか一つになって
いる。
あまりの生命力に半ば呆れながらもほっとした。
やはり、何かしらの情のようなものをこの黄色い
魔獣には感じているらしい。
黄色い魔獣は立ち上がると、触角(?)を避けながら
意外にも素早い動きで巨大魔獣の元へ近寄っていく。
「お、おい…危ないって…!!」
頭上をかすめとぶ巨大魔獣の触角(?)を転がり
よけながら、黄色い魔獣に向かって叫ぶ。
が、黄色い魔獣の動きは止まらない。
やがて、黄色い魔獣は巨大魔獣の元に辿り着き何かを
楚々と差し出した。
…チーズだった。

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